『唄う海』7


典礼参謀はその名の通り参謀である為、司令官附きか、艦長附きとなることが多い、異世界に来て広範囲に分散して海軍が活動するようになってからは後者が圧倒的に多い
『五島大尉(昇進した)私はどこに立てば良いのかね』
先に滞在していた艦の交代につき招かれた晩餐会であるが列席者の名簿しかない、そのため典礼参謀と話をすることになったのだ
『艦長、第五列の中央です、その前の列は王族の方々になります、列が謁見時には左右に分かれますから、前に進み出てください、退場は脇にある各家の紋章に会釈をした方がよろしいでしょう、しかし第七列、盾が書かれている紋章以下は礼をすると逆に侮られます。目安にしてください』
しかし、懇切な説明に舌を巻く
『盾、だね。良く調べたな、さすがは典礼参謀』
『それ意外は航海中は穀潰し同然ですから、当然です』
そういえばそういわれていたな
『他の年かさの副官や各科の長が言うことは気にせんでいいぞ、少なくとも、今、私は助かっている、その職分を貴様は果たしている』
『いえ・・・そんな』
『貴様の事をいろいろ言っている奴らもいるがそれは心得違いだ』
『ですが私は客人にしか過ぎません、各科の方々ももっともです』

自分が批判されている方を支持するとは面白いやつだ
『謙遜も過ぎると鼻につくぞ、君の弱点だ、言われるままでは駄目だ、味方を作り、その意識を払拭していかねば、孤立するぞ』
『恐れながら、艦長、私の存在で艦の意見を割る方が私は問題だと思いますが』
『割れてどうにかなるほど私の艦に対する統率は取れてないかね?』
笑う、心配のしすぎだ、損な性分なんだな
『い、いえっ!そのような事は!決して!』
『ふむ、私の言う心得違いというのはな、参謀とはただ科の専門知識のみで成り立っている訳ではないという事だ、科の長達はそこを間違っている。こういった知識も必要だ それからこれは君にだ。指揮官は判断を下すため、いつも孤独だ、参謀はその孤独から指揮官をいかに救ってやれるか、だ。孤独をなくすには知識だけでなく、ここが大事だよ』
胸を指す
『君の場合、その孤独を癒すべき参謀が胸襟を開かず、みずからが孤独であるというのは本末転倒なのだよ』
『は、肝に命じます!』
『よろしい、教育はここまでとして、晩餐の際のマナーはフランス式でいいのかね』
『はい、しかし狩猟を主にして来た王族の為か、手掴みで食べるのがマナーの料理が出る恐れがあります』

『ほぅ・・・それなら何か小話でもあった方が良いかな?』
『そうですね・・・モンゴルの騎馬民族が尻に肉をひいての話が、喜ばれるのではないかと愚考しますが』
『私も聞いたことはあるな、しかしなるほど・・・的確だ、興味を持つかもしれんな、座興には結構な話だ、まとめておいてくれ』
『艦を出る際には、必ず』
『うむ、頼む。』
『私から以上です。では、これで』
『ああ、戻ってよし、かかれ』
『はっ!』


五島が部屋から出ていくと艦長が執務用の机から書類を出すと文章を書き直す
『なんだ、思ったより使えるではないか』
次の任地への五島の評価表をつける、可能なかぎりのフォローを付けて
『頑張りたまえよ、典礼参謀』
こうして一介の中尉だった男は多数の人々の手を経て一人前の典礼参謀として形作られていくのであった


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