『唄う海』6


『1、2っ、3!1、2っ、3!ホラホラ、テンポを乱さず、じゃんじゃんいかんかぁ!!隣の組に負けんようにいそげぇ!!!』
五島とニーギの居なくなった大日本帝國海軍砲艦嵯峨は測量の傍らとある田舎町に停泊していた
『・・・一支砲術長はなにをしておられるんです?』
港から聞こえてくる歓声と怒声に困惑したような顔をしてレーヴァテイルがあらわれる、帝國海軍初のレーヴァテイル採用兵員だ
『ターニャ水測員、消防訓練だよ、バケツリレー』
航海長の対馬が答える、いつもはアップにして束ねているターニャの髪が降ろされている、非番の証だ
『非番なら町に出るなり、歌うなり、泳ぐなりしても良かろうに、どうした?飲みに誘われたんじゃないのか』
『一人が好きなのでお断りしました、私は酒場で肴として歌えといわれて歌いたくありません!それで部屋で曲を聞こうとしたらあれです』
一支と住人のバケツリレーを指差す
『そうか、災難だったな、まぁオレの番になるまで待て』
性格がニーギと違って少しキツいので随分みんな困惑したものだ
『キュキュ・・・それで消防ってなんですか?』
有能であるがこのようなボケを時々かますおかげで乗員と険悪にはならずに済んでいる

『火事を防ぐことだよ、火災火災』
外人に日本語を教える際に混乱する原因として意味が同じで言葉は違う事である、そこはやっぱり苦労するらしい
その前にレーヴァテイル、人魚に火事といっても理解は難しいかもしれないが
『キュ・・・火災・・・熱くて煙が出て、艦船では広がる事を避けねばならないことですね、それをとどめることが消防・・・キュウ、理解しました』
難しい方の言葉から教えるからこうなるんだろうが、笑えてくる
『我々海軍の艦艇は停泊している町で火災があったりすると、消火に手勢を出したりするんだよ、機材も良い物を持ってたりして、帝國本土でも離島とか田舎は特に喜ばれてる。ま、我々も友好イメージの推進に一役ってとこだな』
こちらでは消火槽や火の見櫓の整備もまとも整ってない、バケツリレーでも無いよりはマシだ
『・・・そうなんですか、航海長は何を?』
『俺は打ち壊しを教えるつもりだ』
『キュイ?』
『火事が起きたらその周りの建物をぶっ壊して火事が広がるのを防ぐ、さすがに訓練で家を壊すわけにはいかんから、講義だけだがな』
楽しそうに言う対馬
『航海長・・・思ったより考え方荒っぽいんですね』
『一支には良く言われるよ』

『大体これ言い出したのも一支だしな』
『砲術長が?』
言葉遣いのせいか荒っぽい人間だと思われているらしい
『砲術の人間だから地上砲撃をする時のイメージで陸岸を見てたら木造家屋が多くて閃いたらしい・・・目標に対してどう判断し、何の弾種を使うかは一支の領分だしな、意外と細かく気が利くんだ、あいつ』
『キュ・・・想像できません・・・』
『この艦の時じゃ無いが、修学旅行生の説明引率までこなしてたからなぁ・・・いつかこっちの世界の学生を乗せることが出来ればいいな、ターニャ』
『はい、この艦に来たら私が説明したいかと、この世界の住人として』
『あぁ、たぶんそれは無いぞ』
『え?』
『大正元年の生まれのこいつだ、出航前に内示があってな、退役が決定されたそうだ、だからここじゃなくて別な艦、だな』
『な、無くなっちゃうんですか・・・この艦』
『あぁ、まだ兵の皆には言うなよ、非番の奴らが戻って来たら、お!一支、終わったか』
『なかなか覚えが良くて助かった。しかし対馬、貴様誰と喋っとるんだ?』
『ん?あ、あれ?ターニャ?』
横に居たターニャが居ない

ターニャの部屋
『ふぇ・・・もうこの音が聞けないなんてひど過ぎます・・・ぇく』


inserted by FC2 system