『唄う海5』


翌日
『キュイ♪ありがとう』
『どういたしまして、また歌ってくれると嬉しいです、では復路もご利用を』
桟橋に着けた九七式大艇からニーギが搭乗員と話して降りてくる、足はきちんと人間と変わらない二足歩行に変えてきている
『また歌ってたのか』
『だって好きだもん』
最初こそ発動機の轟音に驚いて目を回していたニーギだが、機体を切る風の音と発動機のリズムにあわせて歌を紡ぐようになっていた
搭乗員達には発動機等の異常がすぐわかるので便利と受け入れられてしまった・・・喜んで良いんだろう、たぶん
『そうか』
苦笑する
『ゴトー、なにかダメ、あった?』
『どうしてだ?』
『ゴトー、ダメあった時、いつも少し音下がってる♪』
図星なのだがレーヴァテイルが饗応の場で賭け事のため狩られてたとは言えないわな
『敵わないな、ニーギには、そっちはみんな息sもとい、元気か』
『キュ?うん!みんな仲良くしてる、元気元気♪』
息災とか難しい言葉はまだ、理解できないので言い直す・・・しかしニーギのわからないときの首を傾げる仕草が堪らなく可愛・・・こほんっ おそらく目が釣り下がってることだろう。こんな姿を見られたら松浦中佐になんと言われることやら

『貴様も飽きんな中尉』
そうそう、こんな感じに・・・うへぇ(汗)
『松浦、久しぶりなのだ♪』
ニーギが手を振る
『中佐が私の妻の出迎えに為にわざわざお越しにならずとも・・・』
こめかみに手をあてる松浦中佐、呆れている
『君は馬鹿か、そんな事で私が来ると思うかね』
おもいません
『・・・歩きながら話そう』
どうやら重要な話らしい・・・気が引き締まる
『帰順交渉がおおまかに纏まったあたりからペロー7世の姿が王宮から見えないと聞いたら君は驚くかね』
『ご病気なのでしょう?面会を謝絶するような病なら当然なのでは?』
『同じく国王お抱えの医者が数日後に海に浮かんでいてもか?今は皇太子のお抱えの医師が付いているそうだ』
『・・・偶然、と考えたいですが、不自然ですね』
そうであってほしい、一悶着はニーギで起こすつもりだったが、火種となる程のものは勘弁願いたい
『昨日の出席者も皇太子派だ・・・我々は誰が国王だろうと構いはしないが、この海域の静謐を乱す訳にはいかない』
『あの男ですね』
『しかし、たかだか大型帆船の10も出せればいいこの国で見返りもなくあの男が動くはずが・・・探るにも私には式典がある、だから貴様に任せる』

『・・・』
胃が重くなる
『なにも貴様にダーティな事をしろとは言わん、期待もしていない、我々は典礼参謀であり諜報員ではない、だが相手の手のうちを知ることは大事だ』
それはわかる、素直にうなずく・・・
『ただ貴様の細君は水中に潜れる、貴様がいれば音楽に惑わされることもなかろう、事を調べるのはうってつけだ』
それは・・・ニーギも使えって事か?
『大丈夫、大丈夫♪』
ちょっと待て、わかっていってるのかニーギ(汗)
『頼んだぞ!こちらも皇太子にカマをかけてみる』
置いていかれてしまった、反論もなにもあったものではない
『ニーギ、あのなぁ』
危険な事はさせたくない、利己的と言われてもこれだけは譲れない
『ゴトー、ニーギ信頼してくれないの?ニーギ役に立てないの?』
う・・・その言い方はないだろ
『わかった・・・でも絶対、絶対に無理するなよ、必ず報告しに来る事、でないと、ニーギの事、大嫌いになるからな』
『キュイ!』
これは本腰にならなければ


『はっぱをかけるにはこれで良し・・・』
中尉もこれで諜報に多少は動けるようになるだろう

『教育熱心ですな』
王宮からはウェレスが望遠鏡で様子を見ていた
『楽しみですよ』


島で何かを成すならば、全ては港に起因する、ここを抑えなければならない
酒場に行ってはそれほど好きではない酒を飲み、歌を歌い船乗りに景気を聞くのは少々キツい
ニーギには排水管をつたって開いていない倉庫にどんなものがあるかを調べてもらった 『キューン・・・ゴトー臭かったよぅ』
『あんなとこ通れば仕方ないさ』
鼻をつまむニーギの頭を撫でる、ここは人気の無い海岸だ、ニーギはレーヴァテイルそのままの姿である
『砂糖が不足しているのはわかった。しかし祝賀会があったからな・・・それほど不審ではないが』
どうも数があわないのだ、それ以外は表も裏の帳簿もあっている、出る船、入る船の積載量を加味して推定しても、だ
『あ、船だ。〜♪〜♪』
『好きだなぁ・・・待て、今日の取引はもう無いはず』
その船は昨日のレーヴァテイル狩りが行われたプールのところに停泊しようとしていた 『皇太子のお遊び用のクルーザーか!』
盲点だった、国王が居ないなら何にでも利用できるはずだ!しかし調べようがない、ニーギを使うにもあのケダモノが居るのだ人間でもまずいだろう
『キュイ?』
『中佐・・・皇太子は完全なクロです!』
皇太子は一体何をしようとしている!!!

『私は思う訳ですよ、中佐、無駄な出費は省くべきだと、それにいらない部分は多少旨味があっても切らねばなりません、害毒ですからな、売れるなら売り付けてしまったほうが良い』
『皇太子は経済にお強くあられる、軍人の私など足元にもとてもとても』
皇太子と談笑する松浦中佐
『おぉしかし、軍では使用する魔法結晶、火薬の値段ぐらいは抑えておくものでしょうに』
・・・墓穴を掘ったな、普通即座に魔法結晶と名をすらりとは出さず弾とか簡単に言うものだろうに
『安く上がる方法を知りませんか?我々も知り得る事ができるなら是非、友邦としてこれからはギブアンドテイクでなければ、ここの国民は幸せだ、あなたの知能で安穏としていられる』
おだてる・・・さぁ言え、言ってしまえ!
『買っていただく程の知恵ではありませんぞ、小さくしてバラ撒くのです、使用量が小刻みにできる、それだけです。威力を必要とするならば色々考慮しなければなりませんが、なかなかに儲かる』

何故だ、どうして気がつかなかった、日清日露の戦いであれほどお互い多用し、安く上がり、被害を被ったそれを・・・!


災厄をもたらす汝の名は、機雷なり!!!


最初はただ魔法結晶の出費を嫌う男の編み出した小手先の経費削減策に過ぎなかった。
販売領域を争うその地方の小さな小さな海戦でつかう魔法結晶の値段に僻益した彼は、嫌がらせとして細かいくずの魔法結晶を集めて封じたもの海に浮かべたのだ。
沈める気はこれっぽっちもなかったが、自分に利用できない海域など使えなくしてしまえ、という自己満足なわけだ、効果も本人すらあまり期待はしていない

しかし列強は考えた。きちんとした、しかし小さな魔法結晶を利用し、起爆もまともなそれを海域に流すことができたなら、帝國は海では圧倒的だ、利用できない海域など無くなってしまえという考えは食指を動かすには十分だったはずだ、数も揃えられる

そんな背景は松浦中佐は知らない、以前、今はウェレスと名のる男は言っていた
『別に狩りは追い掛けるだけでなく罠に嵌めるという楽しみもある、いつしかけたのも誰かのもわからない罠に嵌まっている獲物は実に滑稽ではありませんか』
そしてこうも言っていた
『かかる獲物が強大で巧知で美しいならなおさらです、おぉ世のなんとはかなきか、ですよ』

帝国海軍の軍艦はまさにその通りでは無いか!!


『どうなされた、中佐?』
『気付かれたのですよ父殺しのペロー8世国王陛下、いやぁ御名察です』
バルコニーから声が、ワイバーン・ロードに乗ったウェレスだ
『な、何と!?待て、わしも逃がしてくれる約束だろう!』
『どうぞ、飛び乗ってください』
ワイバーンを近づける
太った体を揺らせ、走るペロー、帝国に捕まればすべて終わり、必死だ 『おおっと』
跳んだ所でワイバーンがわざと体勢を崩す
『ああああぁーっ!!!』
ヨーヨーのようにバルコニーから落ちていくペロー。勿論急上昇してくる事は無い
『あー、困りました、この功績は誰のものにしたらよいのでしょう?』 棒読みのセリフだ
『ウェレス!!!貴様!!!』
『中佐は当分この島に滞在することになるでしょうから、私は先に帰ります、私的旅行がバレまして、上がうるさいのですよ』
あざけ笑うように飛び去るワイバーン、してやられた。あの言い分ではこの島は機雷によって封じられた後だ、磁気だの何だのの区別が無い魔法、目標には木造だろうが作動する。下手に動けない
『なんてことだ・・・早急に本土に伝えねばならんというのに!!!』

手をこまねいているしかないのか!


『そうか!機雷か!』
かつて機雷の安全装置に砂糖が使われたのを聞いたことがある
『ニーギ君、機雷の位置は書けるか?』
首を横に振る彼女
『無理です、海水面や海中を動いたりしてるならまだしも、海流に乗った物までは、わかったとしても今現在の位置とそれにながされて違ってきます!』
『キュイ・・・ごめんなさい』
『いや、君は悪くない』
『九七式の無線はどうです!?』
失念していた・・・そうだ、あるじゃないか!

『むごいやり方を・・・』
搭乗員は殺され無線は破壊されている、凶器は手斧らしい
『・・・中、佐?』
『大丈夫か?生きてるな!?』
ニーギに話していた搭乗員だ、腹わたが出ている、助かりそうに無い 『この機体を・・・飛ばさなきゃいけないんですね?』
『飛ばせるのか?』
『私だって、飛行・・・艇一家の一員です・・・!』
『すまん・・・』
操作方法を途切れ途切れ中佐と私におしえる搭乗員
『ニーギ!手を握ってやってやれ!』
泣いているニーギに頼む。
『・・・コンタクト!』
発動機が回った、滑水して飛べる!
『嬉しかったんです・・・あなたがこの機体にきて、歌を歌ってくれて、この機体にも箔がついたって・・・歌ってください』

『この機体の歌を・・・』
意識が混濁して来ているのだろう
『しっかりしろ機長!!君達の機体だろう』
『ニーギ!!!』
『っ・・・うん!!!歌う!!!』
『中佐・・・機長・・・飛行機が好きで・・・操縦席動かしてみようとしたら怒られてた僕が・・・ははは・・・』
『〜〜♪〜〜♪』
速度を上げ、滑水する九七式の後ろに水柱が連立する
『・・・そこで、上げ舵、です・・・あぁ』
浮遊感が体を包む、飛んだのだ
『航測は・・・』
『大丈夫です、私がします!』
『本当に・・・いぃ歌を・・・』
動かなくなる搭乗員、名前も聞いてない
『ニーギ・・・』
歌い続けるニーギに声をかけるが首を横に振り歌い続ける
最寄りの基地につき、エンジンを切るまでその歌は続いた

『中佐』
『私は本土で対策に手を尽くしてみる、彼らの事も含めてだ』
『よろしくお願いします』
本土行きの臨時便で戻る中佐を見送る
『細君は気落ちしてないかね』
『大丈夫です、私がそばに居ますから』
『離れるなよ、そして何があっても死ぬな、でなければ交渉も出来ん、典礼参謀の基本だ、臆病物と罵られても死んではならん!いいな!』
『はっ!』
中佐を乗せ飛行艇は空へと飛び立っていった


inserted by FC2 system