『唄う海』03


結婚式は艦内総出で行われた、もちろん帰港前日で危険が無い故だが。
用意といってもニーギのウェディングドレス(のようなもの)は医務室のベッドのシーツで無理矢理こしらえた物だし、食事も航海終盤。そんなに豪勢な物は出せなかったが、小値賀艦長の礼服を着せてもらった五島とニーギは幸せそうに誰もが見えた


翌日、呉に嵯峨が入港すると、途端に騒がしくなった。未だに珍獣程度にしか考えていなかったGFだが、それがこれほどの物と識ると考えを改めた。
調査団とともに見物に来た、好奇心旺盛で、物珍しい物大好き、茶目で少しばかりチャイルディッシュかつ博打うちの元GF長官がその価値を見逃すはずが無かったからだ
それにしてもニーギにピンゾロやポーカーを教え込んでいくあたりはさすがだ、ちなみにピンゾロは途中から音でサイコロがどうなったかわかるようになったニーギに惨敗して戦法を変え五島やら小値賀艦長を加えたポーカーでは一人勝ち、と・・・ホントに病人か?あの人。と思わせるまるで嵐のような人だった、もしかしたら俺も冒険に行きたいと駄々をこね仮病を使っているというのはわりかし本当なのかも、賭博が盛んな地はこの世界にはごまんとあるはずだから

調査団の検査の方は私の書いていた観察日誌を押収し(もちろん不都合なところは既に消した)疫病と血液検査(注射の時は痛ければ私の腕を噛んでいいからと我慢させた。腕には歯型がもちろん残っている)
そして湾港測定、実際の地図と見合わせ、やはり彼等は驚愕した、一部の狂いも無い、むしろ今現在の状況がたちどころにすぐわかるとなれば測量などこれから必要ない、異世界に来て神経質になっていた座礁の心配など万に一つも無くなる・・・!
ただの珍獣から最重要の軍機にしようとした彼等の目論見はその次の日の大手新聞記者の一面記事で御破産となった
人魚という神秘性と救助、ロマンス、結婚とオメデタイ記事に軍がケチをつけてどうするのかという話だ、怪談物なら人心を惑わす等の理由でなんとでもなるが・・・
兵器としてでなく友人としてこれからも扱わざるをえまい、なにせ御上も大変お喜びになられたと聞く、海洋にも朕の友人が居る、そう言いかねないほど海の生物を御好みにならる陛下が、それを兵器扱いするのに良い気分であられるはずがない
『キュ〜イクォ〜♪』
楽しげに歌を歌うニーギをバックに調査団はひとまず調査を終えるしかなかった

ニーギ達レーヴァテイルは活発に活動している港の近くでニーギが呼びかけるとすぐに集まった、動力船の発生させる音が余程好きらしい、仲間うちは無条件に信頼するのだろう・・・楽天的というかなんというか。
そして彼女らは種族そのものが女性しか居ない単位生殖だとの事、みな姉妹だというのだ。男は必要ない・・・というわけでもないらしく有性生殖も可だとの事だ、奇跡的に人間と近しい種と言えよう
ただ、これには悲劇が付いてくる、惚れた腫れたは人を問わない、人魚であるレーヴァテイルに惚れた人間は魔物に惑わされたとされ、人里を離れ海に暮らす
・・・魚だけを食べていればどうなるかは語るまでも無いだろう、生まれた子供も長生きは出来ない・・・悪い噂や伝説が彼女らをこれまで人から離れさせていたのだ(人が離れていたともいう)
この世界の船舶の中にはレーヴァテイルが性行為に耐えられるので、航海中に音楽を鳴らし、捕まえてさんざん暴行をはたらいたあと無残にも殺して捨てるという事も頻発していたらしい
私は憤った、彼女らは常に人を受け入れようとしている、なのに人間は何だ!帝国が率先して受け入れ、その感情を打破しなければならない!そう考えられるようになった

今現在はレーヴァテイルの総人口と分布の調査が必要とされていて、種族としての認知ではなく国を造り異世界の人間と同じく対等の存在とするのが目的で、陸式の真似事をするのかと嫌な顔をする方も海軍内にはおられますが、必要な事です
その見返りとして希望をとりレーヴァテイルは水測員として艦隊各艦に配属することとなりました。
ニーギはそこで私たちが教えた日本語を他のレーヴァテイル達に教える教師として働いています、下半身のヒレでビタンビタン歩くのかと思ったらアルコールをかけると鱗がはげ、下半身も人間に限りなく近い物が現れてそれで歩きました(人間より未発達なので時たまコケますが)
・・・実はその姿をさらすという事は性行為を行う覚悟完了(えー私とニーギがその気になって初めて知った)ということらしいのですが、ロングスカートやスパッツでこの姿でも隠すことで普通の女性と変わらぬよう意識を変えていきます
しかし基本はやはりヒレでビタンビタン歩いてます
私は、というとあれから勉強に励み典礼参謀に志願し、今現在はその仕事に励む傍ら時間が合えば妻を滞在国によんでは我々は対等だとレーヴァテイルの待遇改善を求め歩いている、大変だがやり甲斐があります。

『ったく典礼参謀に行ったから何か情報を持ってくるかとおもったらノロケやがって』
五島からの手紙をポイと聞いていた他の部下に渡す、顔は笑っている
『結婚したての貴様のよりはマシだろKの具合いはどうだったとか恥ずかしげもなく』
『ぐ・・・対馬、それは言って欲しく無かったぞ』
『一支砲術長、袋にこれが入っていたのですが』
『ん?』
追伸
最初のレーヴァテイルの配属はそちらになりそうです、可愛がってあげてください。乱暴しちゃダメですよ
あと部隊の旗が出来たらしいので追ってそれも伝えます
『おい貴様ら!!!喜べ、レーヴァテイルが来るぞ!!』
『ほ、本当ですか!?』
『部屋片付けるぞ!!』
『ち、蓄音板どこやったっけ?』
『まったくここの野郎どもは・・・』
『あなたもでしょ砲術長』
笑う一支につっこむ対馬、ニーギと五島が居なくなってそれなりに艦内が沈んでいたのだ
『海軍軍人らしく、丁重に扱うこと、いいな!』
『了解です!!』


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