『新型列車砲の初陣』


「発射準備完了!」
「撃て!」

曇天の日、列強の従属国、ラマトス王国のリバ半島付け根に設置された基地に爆音が響いた。

「司令!何者かに攻撃を受けています!」
「それぐらいわかっている!帝國の機械竜か?!」

しかし、その考えは次の瞬間に打ち消された。

「また来ました!爆弾ではありません。砲弾です!」

副官の言うとおりであった。
機械竜特有の音は全くしなかったのだ。

「この爆発の大きさは『センカン』か?!」
「おそらくは」

グラナダ戦役の情報は彼らにも届いていたが、その砲撃よりも一発に威力があった。
また、ゲヘナ島での戦訓より、帝國海軍方面艦隊に耐えうるだけの防御力を持たせていた基地(本当に耐えうるかは怪しいものだが)が被害を受けていた為、彼らはそう判断した。

「ワイバーン・ロード部隊出撃!」
「続いて対艦魔法の槍部隊出撃せよ!」

列強によって開発された対帝國艦船兵器がこの基地には用意されており、砲撃の最中、小内海に向かって出撃していった。
しかし、彼らは洋上に何も見つけることは出来なかった。


そもそも、この砲撃の主は帝國海軍ではなかった。
帝國ではあったが、帝國陸軍だったのだ。
しかし、何故戦艦の対地攻撃と勘違いしたのであろうか?

実は、この砲撃は線路上の陸軍の列車砲によって行われていたのだった。
だが、九〇式二四糎砲ではなかった。
試製三五糎列車砲。それがその砲の名前だった。

その砲身は50口径35.6cm砲。
金剛型戦艦の代艦計画時、案としてあがっていた新型砲で、試射まで行われていたが、新型戦艦がより大型になった為に、破棄されるはずだった砲である。
そこに目をつけたのが陸軍だった。かつて口径24cmの列車砲を所有していたが、転移後の帝國レムリア鉄道では1600mmという広軌の為、より大型の砲の運用が可能となっていたのだ。
特製の砲架に載せられた35.6cm砲は試製三五糎列車砲となり、50km以上の射程は陸軍の砲の中で一番であった。また、1発の攻撃力も金剛型の主砲を凌いでいた。

人員不足ですぐに戦艦を動かせない海軍に代わり、陸軍が攻撃を行ったのだった。
この攻撃により、列強は存在しない帝國艦船を求めて小内海での索敵を続ける事となった。

なお、この列車砲の台車は後に払い下げられ、近年までレムリア鉄道での重量物の輸送に活躍していた。


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