『旧満鉄技術者の日誌』2


1942年1月1日(木)
1942年という新しい年が始まった。
年賀状を見てみたが、私宛のが一番少なかった…。
そういえば、あまり同僚に日本の住所教えていなかったかも。
久しぶりに家のおせちを食べたが、やはりおいしかった。

1月3日(土)
今日、早朝に家を出て、観艦式を観に行った。
子供達は大興奮であった。
新しい戦艦や航空母艦は、巨大で、まさに「くろがねの城」であった。
そこで、政府側が、発表を行っていた。
なんと、大規模な軍の動員解除を行い、100万人以上を職場復帰させるらしい。
大規模な戦争は無いということだろうか。

1月5日(月)
今日は仕事始めだ。大量の資料が運び込まれてきた。
部屋の中が再び汚くなってしまった。
大調査部の人たちがまたやってきて、上の人たちと何か話していた。
こっそり耳をすませて聞いてみたが、「だあくえるう」とか良くわからない事を言っていた。

1月6日(火)
今日は、国鉄との話し合いをしに行った。
職員の一部を国鉄に引き取ってもらう為だ。
しかし、多くの人が職場復帰したので、交渉は難航している。
後で、職場復帰した人のおかげで弾丸列車計画がより順調にすすみそうだ、と聞いた。
また、秀雄さんは、新しい電車の計画もしているらしい。

1月8日(木)
また大ニュースを大調査部がもってきた。
この前の大ニュースから2週間ぶりだ。
「ダアクエルフ」という民族が、陛下に臣従したらしい。
先日聞いたのは、この「ダアクエルフ」のことだと思われる。
「ダアクエルフ」は一体どこに住んでいたのだろう?

1月9日(金)
車両の今後の活用法について話し合った。
車体幅が大きい為、車両限界に接触、または超えるのがほとんどの為、改造が必要である。
しかし、台車の交換、台枠及び車体を細くする工事をするならば、新製したほうが良いという意見も多い。
いっそのこと万世橋の博物館に送ってしまおう、という意見まであった。
神州大陸で使えるかもしれない、という期待もあるが、鉄道をひける状態なのか分からない。

1月10日(土)
昨日の話題にでた万世橋の博物館に行きたくなったので、久しぶりに訪ねてみた。
大型模型などが展示されていて、私のような専門の者でも楽しめる所である。
ここに古い機関車を寄贈するのも悪くないかもしれない。
正面に飾ってもらえるかもしれない。

1月12日(月)
今日の新聞で、「ダアクエルフ」に沖縄と小笠原の間にある土地を与えた、と書いてあった。
そんな所に陸地があったかなあ?しかしそこに「スコットランド王国」を建国したらしい。
「ダアクエルフ」についての説明も多少書いてあった。
肌の色が濃く、耳がとがっているが、非常に優秀らしい。
是非一度会ってみたいものだ。
…しかしスコットランドというのはイギリスの一地方ではなかったか?
イギリスは文句を言ってこないのだろうか?
まさか、ドイツがイギリスを占領し、こちらに逃げてきたのだろうか?
いや、ヨーロッパの人間は肌の色が白いはずだ。
分からん。寝よう。

1月13日(火)
昨日のことが気になり、仕事先で地図を見てみたが、去年までの地図にそのような土地は無かった。
もしかしたら、軍の機密の土地だったのかもしれない。
また、最近、ヨーロッパの戦争の話を聞いてないような気がする。
膠着状態におちいったのかなあ?

1月15日(木)
大調査部の人がまたやってきて、新たな情報を教えてくれた。
どうやら、本土から離れた場所に大陸が見つかったらしい。
資源がある可能性も非常に高いらしく、政府や軍も注目しているそうだ。
読み返してみると、大調査部が来るのはいつも木曜だ。来週も何か情報持って来るのだろうか。

1月16日(金)
再び、車両の活用法について話し合った。
客車は弾丸列車計画に流用できるかもしれない、としてそのまま保存しておくことになりそうだ。
機関車は軸重(車輪にかかる重さ)軽減改造が出来るか研究する方向になった。
日本は地盤が弱いから大陸式の車両が使えないのが困るんだよな。

1月19日(月)
機関車の軸重軽減方法をある程度考えたが、実用性を確かめる為に、秀雄さんに会いに行った。
彼は、今の日本国内の蒸気機関車の設計に多く関わっているからである。
聞いた所、従輪(動輪の後ろにある車輪。運転室の真下)を増やすのが一番簡単らしい。
どこか工事をしてくれるところはあるだろうか?

1月21日(水)
きた。ついにきた。海外に鉄道をひくことが決まった。
詳しい内容はまだ決まっていないが、満鉄も参加するらしい。
車両の流用が出来るかもしれない。
ようやく希望が見えてきたぞ。

1月22日(木)
昨日の話の続きがやってきた。
「帝國大陸鉄道」を設立し、資源を港まで運ぶ鉄道を中心に運営するらしい。
再来週あたり、現地調査を行うチームを派遣するらしい。
何とか私も行かせてもらえないだろうか。

1月23日(金)
やった。私も現地調査のチームに参加させてもらえることになった。
しかし、詳しいことは行きの船内で説明する、というのは気になる。
しかも、あまり他人に話すな、とまで言われた。
ひとまず、荷物の整理を始めよう。

1月26日(月)
ふと気になって、スコットランド王国と神州大陸に鉄道をひかないのかと聞いてみたところ、
スコットランド王国と神州大陸は本土に近いということで、ほとんど鉄道省の人間でやってしまうらしい。
「ダアクエルフ」に会えるかもしれないと思ったが、それはまた今度だ。
出発は今度の金曜の午後だと言われた。早く準備を終わらせなければ。

1月28日(水)
なんて政府は愚かなのだろう!スコットランド鉄道は国内と同じ狭軌にする予定だと!
そりゃ初期投資は少なくて済むかもしれないが、旅客鉄道として発展するのを考えれば、標準軌にすべきだろう!
それをあの政府の担当者は「国内と同じレベルのものを提供する。軌間や建築限界も国鉄と同様」と言った!
私鉄には標準軌だってあるのだから、そちらで作ってやればいいじゃないか!

1月29日(木)
久々に飲みすぎて二日酔いで頭が痛い。
全く政府担当者ときたら頭が堅くて(以下馬事雑言)
これ以上書きたくないのでここで筆を置く。
とりあえず、明日に持ち越さないようにしよう。

1月30日(金)
午前中に皆にしばしの別れの挨拶をしてきた。
その後、「帝國大陸鉄道」の人に連れられて横浜港から船に乗った。
驚いたことが二つあった。
一つ目は、乗船後、誓約書を書かされたことだ。
要は、政府が良いというまで見た事を他人に(身内にも)口外するなという文だった。
一体、何を見ることが出来るのだろう。むしろ楽しみだ。
二つ目は、ある程度予想されたことだが、横須賀辺りから海軍の護衛がついたということだ。
しかも、輸送船が何隻も一緒で、大船団になっている。
まるで、上陸作戦でも行うかのようにも見える。まあ、資源を手に入れるための機材だろう、きっと。

1月31日(土)
なんと、去年の年末にあった親友に船上でばったり出くわした。どうやら、私たちの案内役として選ばれたらしい。
今後の予定を聞いたところ、途中、何ヶ所かに寄港した後、諸島で補給して目的地に向かうと教えてくれた。
現地に到着するまでかなり日数がかかるそうだ。しかし話し相手には困らなくてすみそうだ。


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