『不要品を窓より放擲せよ』


第一公用語たる帝國語のワード・プロセッシング装置。しかも可搬式ともなれば、
この平成の御世において人類の圧倒的多数を支配する統治機構、すなわち帝國属領の官衙群にとっては垂涎の的である。
いま、稲葉昌由帝國陸軍技術少佐相当官が試用しているのも、そうした需要に応じようとする技術的野心の産物だ。
「くぁwせdrftgyふじこlp !!」
……「元の世界」の標準とは微妙に配置が異なるキーでの平仮名と片仮名、つまり「帝國表音文字」の打ち込みは何とかなったが、
ブック状に分厚く綴られたタブレットを用いるしかない「帝國象形文字」たる漢字の入力に耐えられなかったようだ。

なお、今回の試験は内部を覗き込んで全体の構成
−上記のキーとタブレットによる入力に従って回転する、
文字コード表を丸々焼き付けたマイクロフィルムのリールが一文字ごとに一巻き、合計で一行分用意されており、
これが背面投影型のスクリーンに拡大映写されて編集画面となる。
その表示を写真撮影する事で文章を保存、印刷には改めて現像と引き延ばしが必要−
を把握した稲葉が、この「電気タイプライタ」を丸ごと窓から投げ捨てた事によって強制終了となる。


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