『兎と竜のゲーム』


機械技術に拠る帝國と、魔道技術を頼む列強諸国。
仮想敵たる相手の実態よりは自らの影に脅え、疑心暗鬼に駆られたこの両者の反応には異なった点よりも、
むしろ似通った点を見出せた。

帝國陸軍がワイバーンの静粛性と超短距離(ほぼ垂直)での発着性に悩み、
バトル・オブ・ブリテンにおける英国を当面の−最終的にはその凌駕を−目標に据えたように、
高速で高空を飛翔し、かつ生命反応の小さい機械竜を恐れた列強某国もまた、
防空監視網の構築に乗り出していたのである。

ワイバーンと比較すれば空飛ぶ楽隊同然である機械竜を早期に発見すべく、
広大で縦深に富む国土へと無数に穿たれた通称「ラッパ穴」−正式には「集音壕」と呼称−、
即ち地面を斜めに掘り込んで、音に対する指向性を持たせた円錐状の蛸壺に、
杵型をした信号弾発射筒を抱えて潜む兵士が国防の目ならぬ耳となるのだ。

全身を目の粗い鎖帷子で包み、さらに黒光りするなめし革の胴鎧を着込んで筋骨隆々たる肉体の曲線を浮き立たせた
彼ら聴音兵は、穴に隠れては耳を澄ませる自分達を好んでウサギに例え、
ウサギの耳を模した兜の飾りはいつしか半ば公式の部隊章にまでなったという。


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