『贅沢は素敵だ』


吸血鬼。
嗜血癖と、その血を贄とする魔道とにより異形へと変じた忌まわしき一族。
コウモリの獣人に過ぎない始祖の出自を顧みれば、その悪名は中々の高名でもある。
帝國がかつて属していた世界でも、東欧の土中でまっとうに腐りつつあった農夫の亡骸を、
文芸と銀幕とが夜の貴族へと押し上げたように。

清朝が、洋夷の頼むのは「堅船利砲」のみと看破した、と思い込んだように、
帝國の拠って立つ機械技術が(この世界から見て)銃砲と動力機関とに要約され、
それに相当する魔道砲と魔道動力では帝國の水準で見ても前者がより有用な以上、
皮相的な関心が動力機関、それも一足飛びに内燃式へと集中したのはある意味必然であった。

まず成功と評せるローレシアの実例から振り返れば浅薄極まりないそんな風潮の中で、
彼ら独特の、それなりに高度だが過度に特殊化した魔道技術体系を有する吸血鬼が、
帝國より洩れ聞こえてきた「石油の一滴は血の一滴」との言葉に触発され、
自らと同じく人血により賦活される動力機関の開発に乗り出した珍事よりは少なくとも必然的である。
一説には半透膜を介した血液と真水との浸透圧による駆動を目指していた、らしい。



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