『食べ物さんありがとう』


帝國が神州大陸に急造したその施設は本土の手工業的なそれを遥か凌ぐ、超近代的なまでの技術の結晶だった。

「この世界では妙な例えだが、まるでデトロイトの自動車工場だな」
「かの自動車王フォード以前にも、豚の屠場で流れ作業が行われていたそうですよ」
物好きかつ気紛れにも視察に訪れた海軍高官に、川島四郎農学博士は応じた。
そう、帝國陸軍が正しく屠殺しつつある土着の「害獣」を徹底的に資源化するための軍指定工場群が、
川島主計大佐を長とするここ「陸軍糧秣本部神州支廠」だ。

乳・肉・卵はまだしも、その他の動物−それも二足歩行する−性食品に不慣れな帝國臣民のため、
肉を除く一切合財には高圧蒸気を通じて脂肪分を溶かし出し、骨は燐灰質の飼料及び肥料たる骨粉になるが、
血液・内臓などはさらに塩酸で煮込んで分解し、苛性ソーダで中和した「アミノ酸調味液」として液状のまま醤油、
または脱水して味噌の増量に用いられている。

大佐のそんな説明と、振舞われた様々なオーク料理にも泰然としていた海軍高官も、
贈られた革財布が、オークの皮をその脳漿でなめして試作されたものと聞いた際にはさすがに動揺を隠せなかったという。


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