『総統の贈り物』


シャルンホルスト。
如何に頼もしき友邦とはいえ、全き異国である独逸第三帝国に属するこの船が逼塞していた筈の港から、
帝國と共にこの異界へと転移を遂げたのは高天原の尊き神慮か、
それとも魔女の老婆の呪詛か、あるいはこの船自身の不運か、はたまた灰色服の男の悪戯か。
何にせよ日独間に渦巻く権謀術数をそのまま帝國海軍というコップの中へと封じ込めたような
複雑怪奇を極めた派閥闘争の結果、彼女は新たな名前と菊の御紋章を、帝國海軍軍艦としての第二の生を与えられた。

今や転移によって科学技術先進国たる欧米諸国から否応無しに隔絶された帝國にとり、
異なる設計思想に基づいた船というものは運用上の制約である以上に技術的な宝庫だったのだ。
帝國海軍最新鋭たる大和型戦艦どころか最速の駆逐艦「島風」をも凌ぐ
高温高圧の蒸気を供給するワグナー缶などはその一端と言えよう。
もっともこの船の心臓たる機関部は艦本式と換装の上、技術資料として揚陸解体されているが。

彼女は歓喜に身を震わせつつ、火と雷と破壊とをその『28cm主砲』から解き放った。
独逸海軍戦艦『シャルンホルスト』改め帝國海軍巡洋戦艦『神威』の初陣だった。


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