『竜無き地の蜥蜴』


ここ富士演習場では鹵獲された大協約軍の鉄竜、即ち帝國のそれを模しながらも、
機械的な制約と、その魔道的な補完の上に成る装甲車両の試験が行われていた。

この余りに異なる技術史の産物を理解するべく、外部より招かれた研究者が要約した。
「砲身流用のパイプを石炭で加熱、注水するフラッシュボイラーから、
車軸に直結されてサスペンションを兼用するピストンへ高圧蒸気を供給、駆動する8輪車ですが、
乾性油を含浸させ蹄鉄を打った木製履帯が、ピボットを介して一輪ごとに巻き付けられ、
サイドスカートで覆われているので一見無限軌道に見えます。
履帯と同じく硬木と鍛鋼を積層して鋲留めした一種の複合装甲で構成された車体の後部へ、
砲架ごと魔道カノンを搭載、発射時はレール上を車外に押し出して接地させ、衝撃を逃がす。
旧軍の4式15cm自走砲みたいなもので、弾速はともかく弾重でチハの装甲を叩き割れますね」

「狭小な車内に合わせて、搭乗員は全て小柄な少女とかはないのかね」
「……軍装は不十分な断熱に対応したものです」
その問答を聴いたかのようにハッチから姿を現した隊員は、筋骨隆々たる裸体にフンドシ一丁を締めていた。



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