『芋粥(3杯目)』


某総督府。
ここでは帝國本土の祝日に合わせ、今宵は周辺の邦国と同盟国の王族及び有力貴族を招いて盛大な宴が催されていた。
もっとも直轄領の通例として辺境に位置する以上、
列強−含む帝國−が国威を賭けて虚栄と毒舌とを競い合う国際会議に比べれば、極々慎ましやかで穏やかだとも言えるが。
ただし隠された目的があるのは共通していた。

「客人達には好評なようだな」
「ええ、中でも御婦人方に甘味が。江戸時代の料理書甘藷百珍を神田で掘り出した甲斐がありました」
何のことはない。帝國はこの地域に支配者層から甘藷を啓発すべく、
フランスのブルボン朝が馬鈴薯で用いたのと同じ手を取ったのだ。
帝國式の一趣向と称して宴に供された酒と料理のほぼ全ての材料が甘藷であり、それは飼料まで含めれば獣肉すら例外ではない。

しかし悲劇は起こった。
繊維質を大量に摂取した御婦人方の一人が体内より声高にガスを発散させるに至り、それを「失礼」と紳士が自らの身に引き受ける。
そして焼酎を大いに聞こし召した一武人が直立不動で朗々と言い放ったのである。
「只今の一発、及び次なる一発は本官の責任において引き受けるものであります」と。


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