『愚者の聖戦』


かの地の者、一人たりとも生かしおくべからず。
「まず殺せ!魂の善悪は冥王が裁き賜う」
真の神々に対する背教者が巣食う魔境を「浄化」すべく、王命と教会の祝福を授かった軍は飛竜に戦竜、さらには新設された近衛銃兵隊と独立魔道砲兵隊まで投入して作戦の一理想、質量共に圧倒的な戦力による殲滅戦を実現していた。
しかし「敵」は帝國軍ではなく辺地とはいえ歴とした王国の一荘園、その領主から賤民に至る全てなのだが。

その戦場よりは屠場に近い、酸鼻を極めた大虐殺を見つめる影が、動揺の余り己自身と、もう一つの影に問いかけた。
「本当にこれで良かったのか、お前と同門の信徒ではないのか?」
聖戦へと燃え上がり、全世界を焼き尽くしかねない火花を踏み消すためとはいえ、踏み消される彼らもまた。
「畏れ多くも現人神なる陛下を御伽噺の魔王として崇める者など、帝國にも王国にも不要なのですよ」
ダークエルフはかつての、そしていま再びの取引相手にして旧知でもある王国諜報部の密偵にそう答えると、両者の率いる部隊が協力して教団から奪い、軍の目から隠した品々から、御真影を粗雑に模写した一幅の油絵をまず選び出して火へと投じた。


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