『13番目の娘』


彼女の姿を見た者は、港町に後を絶たなかった。
転移に伴う混乱により強いられた流産で、この世界に泳ぎ出る事なく命を失った不幸な娘の、ここにいてはいけない亡霊の姿を。

彼女の一族は皇室との関係も深く、その働き如何に帝國の興廃が賭かるとまで謳われた名門中の名門であり、それはこの異世界においても例外ではなかった。
一族郎党と共に陛下を供奉し、転移による人心の動揺を鎮めるのに尽力した者、
某邦国の王女殿下に一時は帝國そのものとすら見なされた者、
ボルドーのとある豪商から余りに身分不相応かつ熱烈な求愛を受けている者、等々。

現在こそ一部にその生き方を難ずる向きがあるとはいえ、一般の帝國臣民から寄せられる支持も依然として絶大なものだ。
中でも彼女と直接に血のつながる姉2人へ対するそれは崇敬の念にも近いとなれば、 死児の歳を数える者が、美しく成長した姿を夢想する者が、その亡霊を見てしまう者が後を絶たないのも止むを得ないのかも知れない。

騒動に終止符を打ったのは、彼女から見た妹の誕生だった。
改大和型戦艦一番艦がその名を継いでからは彼女、大和型戦艦3番艦「信濃」の亡霊を見た者は、誰もいない。


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