『渚にて』


移動砲座に堕した戦竜を代替する突撃力、という誰かの「天才的」発想が発端だった。

「自走爆薬運搬車」は、走破性の向上を狙って半径が人間の身長ほどにも達した鉄製の大車輪2輪を
炸薬の充填スペースを兼ねた樽状の車軸で結合し、
安直に対空「魔法の槍」のものを流用した多数の魔力推進装置をぐるりと車輪の縁に設置して、
直線的な推力で回転力を得て疾走させる、というものであった。
どうやらこの推進力の変換は無意識に帝國のレシプロ原動機から連想されたらしい。

これも安直に黒色火薬とはいえ2tに迫る爆弾が時速100km近くで突進してきて曳火信管で爆発するとなれば、
野戦で帝國軍に対してもかなりの脅威となろう。
……直進すれば。
実際には海岸の試験場を踊り狂うのみで、古の竜車の如く車軸から大鎌を突き出したり、
さらなる経費節減と煙幕展張を狙って黒色火薬ロケットモーターを混載した発展型もろとも開発は中止されたが、
これは試験中、保持架を外れた魔力推進装置の一基が風に乗って思わぬ長距離を飛翔し、
某高位貴族の離宮、それもちょうど令嬢が在室していた浴場を直撃−死傷者なし−した一件が真の理由だとも噂されている。


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