『翼ある者』


青の上へと白い翼を広げるだけで 

世界中を翔け巡れた時代があった

黒い石を食べなくとも 黒い油を飲まなくとも

息を濁らせなくとも 声を震わせなくとも

「内航の商船ならいざ知らず、御紋章を戴く正規の帝國海軍軍艦にまで帆船が復活するとはね。明治の御世じゃあるまいし」
「列強には無論、ダークエルフにも未知の海域となれば、補機の蒸気タービン用に焚く薪炭を入手できれば恩の字ですから」

軽巡を超え、重巡に迫る排水量の鋼製船体に、動力ウインチで縦帆を掲げた帆柱を林立させ、
旧式駆逐艦改造の哨戒艇を参考にした対空・対潜・揚陸の各種兵装に加えて小型水偵をも搭載した「調査巡洋艦」は、
一部なら中小国の王宮にも匹敵する内装に帝國の機械技術産品を詰め込んだ動く博覧会と化して7つ?の海を駆け巡り、
「大航海時代」を出現させる事になる。

「大内海」に面した文明圏間に止まらず、この世界そのものに通信の神経を、物流の血管を張り巡らせ、
一つの有機体へと結びつけるその動きはエルフすら成し得なかった史上初の偉業、その第一歩であったが、
彼女ら帆船たちにとっては再びの生であった。

翼は新世界に羽ばたいたのだ。


inserted by FC2 system