『未知との遭遇』


こう、まじない師様の術を施して頂くまで何でかさっぱり思い出せなんだが、
あれはさき一昨日の晩方の事だっただ。
隣村の嫁入りで祝い酒をたんと振舞われたで、良い気分で夜道を歩いとって、
ふと空を見上げると、何とお月様が増えとる。
これは土産狙いの妖精に悪さされてるんだべと、一服つけて落ち着こうと腰を据えると、
そこら中から黄色い肌に釣り上がった目のチビどもがわらわら出てきて、
光を灯してお月様に化けてた銀色の飛ぶ船に連れ込まれちまっただ。
連中はオラの背丈と目方を測り、毛と爪を切り、銀の針を突き刺して血を…おう痛え。
まあ色々されたけんど、そのうちオラを放り出すと、船は竜も通わんような高くへ飛んでっちまった。
あれはきっとお月様に帰ったに違えねえ。
「連合王国」何ぞ婆様が餓鬼を寝かしつける御伽噺と思っとったが、本当にあったんだべなあ。

列強と一定の平衡に達し、余裕の生じた帝國はこの世界への理解を深めるべく数々の学術調査を実施したが、
その中には海軍の新鋭飛行船で人跡未踏の秘境へと長駆進出し、
専ら魔道的な見地から人外の知的種族より生体試料を採取するという活動も含まれていたと噂されている。


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