『機械の中と外の幽霊』

既存魔道産物の流用に止まらず、「魔術の科学化」を図ろうとする試みは数多の困難に見舞われた。

これもその一失敗例である。

「新型変圧器」なる、専ら対国内の秘匿名称を冠した試製魔力発電機第壱號は
黒ミサと護摩壇と自作ラヂヲを足して割らなかったような代物で、
魔性金属の筒に巻線したテスラコイルに「古竜」の頭骨化石を載せ、アースと空中線、
即ち金箔を施し、朱墨で梵字を記した五輪塔を結び、五芒星とルーンと二重円を巡らせ、香を焚き、
回路内の電鈴を鳴らして水晶発振器で放電間隙に火花を飛ばすと、
およそ12秒後にテスラコイルの二次巻線側へ500kVAの電力が見事発生した。

が、同時だった、一帯の電探・テレヴヰ・ラヂヲ等受信機「から」「ゴースト」が現れたのは。
忍び込んできた生温く湿った微風が、
腐臭を、磯じみた生臭い匂いを、髪の燃えるような臭いを、哄笑を、篭った囁きを運び、
青白く冷たい炎が球に凝って群れ飛び、人めいて人ならぬ者どもが舞い狂った。

民間ならぬ軍間伝説によれば今でも某倉庫の奥深くで、
ダークエルフ謹製の呪符を貼り重ねられて張子細工と化した「新型変圧器」が埃をかぶっている筈である。


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