『新種誕生』


父祖の地を領土と定めた竜の火と煙と吠え声と眼光により、
あの忌むべき一族は追われた、我らがあの一族に追われたように。

豪奢かつ小心にもその巨躯を甲冑で鎧った竜は、
従者が鉄の延べ金を二重に敷いた堤を這い回り、領土を倦まず巡察しているという。

その折りにも供物を担って放さぬ欲深き竜なれば、
彼が貪り喰らう煤石を捧げ、辺境故にドワーフすら知らぬ、その埋れる処を示して奉仕を誓えば、
人間ばかりか獣人、乳代りに油を吸う小さき竜をも含む従者の一端に加えられ、
再び我らは父祖の地へと住まう事が許されよう。


柔毛に包まれた犬猫ほどの小動物が群れて操車場の一角へ石炭の小山、
彼らから見れば大山を築き、鳴声混じりの人語で切々とSLへ懇願しているのに遭遇した
帝國大陸鉄道の一職員は大いに困惑したと伝えられているが、
これが全体としてはエルフに服属していた雑多な小妖精類からその一派、
モグワイ氏族が崇拝と見紛うまでに機械を愛好する「グレムリン」族として分化する発端であった。

彼らは矮躯と繊細な手技により現在でも帝國の精密工業に大きく貢献しており、
町工場または鉄道マニヤの中で容易に発見できる。


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