『繰り返される戦史?』 大陸の西に広がる海。 その穏やかな海原を進む数十隻の艦隊。 甲板が真っ平らになっている六隻の大型船を囲むようにして、大小の戦列艦が護衛している。 東方大日本帝国領方面『陸軍』艦隊。それが、彼等の掲げし名称である。 目指す先にあるのは、とある島。 パール・アイランドと呼ばれ、数ある海洋国家でも群を抜いて豊かな島国である。 彼等は抵抗した。この大陸西部で急激に力を増し始めた東方大日本帝国領に対して。 今回の出撃は、その"制裁"の為である。しかも、帝国領総督自らの出陣でだ。 「旗艦より発光信号、作戦領域に突入。攻撃隊を出撃させよ との事」 「了解。クウボ全艦に通達。攻撃隊、直ちに甲板に搭乗。攻撃準備に移れ」 六隻の大型船の甲板の中央がぱっくり開き、下から巻き上げ式の人力エレベーターによって板が持ち上げられて来る。 其処には、変身済みの獣人達が満載されていた。誰もが、空を飛べるタイプの獣人である。 そのクウボだけではなく、他の五隻も同じだった。 各艦で200人前後の獣人達が甲板にエレベータによって運び上げられた。 「攻撃ぃ〜準備。始め!」 隊長のかけ声と共に、準備体操を行う獣人達。 変身した後なので、かなり体操をし辛そうだった。この辺は改良の余地があると言えるだろう。 「全艦、攻撃準備、完了しましたとの報告。総督……ご指示を」 「うむ、それでは出撃せよ。我等が神国日本の威光を信じられぬ愚か者ども……神が許しても小官は許さん。突撃!」 旗艦の戦列艦からの号令を受け、各クウボから一斉に獣人達が飛び立つ。 その数、1200人弱。背中から翼やらを生やしたヒトガタが群れて飛ぶのは、かなり恐い。 おまけに、その先頭に軍刀を抜いてドラゴンに跨った男が居たら尚更恐い。 そして、その脅威はパールアイランドに攻めかからんとしていた。 「ん……なんだあれは?」 早朝、パールランドの主な産業である真珠の養殖業に励んでいた男はふと顔を上げる。 普段通りの、静かな湾内の養殖場。国内で生産される貝の8割を育てている『真珠湾』と呼ばれる場所だ。 その中で、一番外回りの筏で真珠の管理を行っていた男は、湾外にポツポツと浮かんだ黒い影に気が付いた。 寝不足かなと目を擦ってみて、改めて見る。いや、幻覚などではない。それどころか、ドンドン近付いて来るではないか! 「なんだあれは!」 「鳥か?」 「飛び魚か?」 「いや、獣人の群れだぁ―――!!!」 凄まじい勢いで飛来した獣人達を見て腰を抜かした養殖業者達を余所に、彼等は襲いかかった。 そう、真珠貝……アコヤガイを吊している筏の列に。 彼等は乱暴な仕草で筏に降り立ち、必死に命乞いするお婆ちゃんを押しのけ、アコヤガイを引き上げると。 「うまうま!」 「んまーい!」 「おーい、誰か醤油持ってないかー?」 「海水に漬けて喰えば充分じゃろ」 「お、ラッキー。真珠みっけ」 凄まじい勢いでアコヤガイを貪り喰い出したではないか! 「止めてー壊れちゃう。壊れちゃうよぉ」と遠巻きに懇願する養殖業者を完全無視。 垂下筏を引き上げてはむしゃむしゃと貝をそのままかっ喰らう。 1つの筏の列を丸裸にしては、次の筏へと襲いかかる。 片っ端から食い荒らしていくその光景は、まるで海の蝗のような有様である。 パールランドが外貨を得るのに依存している真珠を生み出すアコヤガイが、次々と獣人達の胃袋へと消えていく。 真珠も丸ごと呑み込んでいるが、それは後で下から取り出せば良いだけの話である。 「総督、お味は如何ですか?」 「ん、悪くない。ただ、醤油か酢味噌が無いのが惜しいな」 先陣切って、総督閣下もアコヤガイを貪り食っている。 レッド・ドラゴンは、近くを泳いでいたシー・サーペントをふん捕まえて頭からバリバリと噛み砕き、ご満悦だ。 まさか変身状態の獣人の群れ(及びドラゴンに乗った変な剃髪男)を実力で制止する事も出来ず。 半泣きと怨嗟の表情で、仕事用の小舟で遠巻きに見守る他無かった。 「総督、潮時です。パールランド海軍が此方に向かっていると物見からの報告が!」 「何だと、まぁ……いい。主目的は果たした」 腹八分に膨れた腹をポンとたたき、丁度サーペントの尻尾を呑み終えたドラゴンに跨る剃髪男。 「パールランド国王に伝えよ、このように我等『東方大日本帝国領』は逆らう愚か者には容赦ないと。さらばだっ」 満腹の腹をさすりつつ、獣人達は凄まじい勢いで飛び去っていく。 そして、遅ればせながらやって来たパールランド海軍と、養殖業者達は彼等に何時までも罵声を浴びせつけたという……。 結果として、主産業である真珠養殖を脅かされたパールランド王国は東方大日本帝国領に屈した。 しかし、真珠養殖組合だけは、怨恨からか帝国統治時も度々養殖業を停止し、ストライキを断続的に起こしたという。 彼等の合い言葉は有名である。『真珠湾を忘れるな!』 完