『スコットランド方面基地異状あり 〜異種婚はつらいよ〜』 スコットランド王国 北部『ハイランド』の港町『アバディーン』沖合 『アバディーン』の沖合数キロの地点にある2つの島。 大きさ、外観共に似ている事、丁度向かい合わせになっている事から『双子島』と名付けられた。 両方とも周囲15キロ程度の、山は無く小高い丘がある程度の平坦な島。 此処に、この地方唯一の日本帝国軍の海軍基地と陸軍基地がある。 日本人とダークエルフ達から、海島と陸島と呼ばれていた。 アバディーン港の桟橋 「ふー、南国だけあって、こっちは暑いねぇ」 開襟シャツから覗く首筋に扇子でパタパタと空気を送り込みながら、男は呟いた。 男は、とある飛行機会社の技術者であり、アバディーンにある部品工場で技術指導を行った帰りである。 工業化への道を目指そうとするスコットランド王国に先鞭として、幾つかの工場が建設された。 無論、帝国式で装備を固めているスコットランド軍が速やかに装具を充足させる為でもある。 密接な関係が成熟しつつある今日この頃、ようやく限られた数ではあるが、スコットランドに民間人が住まうようになった。 以前は陸島か海島の日本人街に限られていた活動が、本島の方にも広がった訳である。 男の仕事も、その一環と言えるだろう。 桟橋に陸島への連絡挺が横付けされる。 今でも緊急時以外の本島への直接着陸や接岸は認められてないので、相変わらず島への渡航は双子島経由だ。 それでも、連絡挺は少し前より大型になっている。これは渡航者の数が増えつつあるからだろう。 (全く、異世界とか何処に行っても、人間ってのは結局適応しちまうもんなんだろうなぁ) そういうものかもしれない。 彼が数年前なら全く予想だにしなかった、耳の長い技師見習い達を受け持つ事になったように。 感慨に近い思いを抱いてしまい苦笑しつつ、連絡挺に歩み寄る。 既に渡航者が乗船を始めていたが、まだ出港まで時間がある所為か大半が見送りに来た人々との別れを惜しんでいる。 まだ時間はある、男は煙草を吹かしながら彼等を観察する事にした。 渡航者の3割は自分達と同じ技術者や企業の出向者、2割が本土へ出張するらしいスコットランド軍将校。 そして残りが陸軍や海軍の将校だった。まだ若い、尉官クラスの青年将校ばかりだ。 彼等は全員、見送りとの別れを惜しんでいた。 相手は若いダークエルフの婦女子。耳が長い小さな子供を連れていたり中にはお腹が大きく膨らんでいる娘も居る。 おやおや、妬けるね憎いねと親父っぽくにやついてると、見た目十代半ばのダークエルフ少女と話し合っている陸軍将校と目が合った。 側には、スコットランド将校も立っていて、彼もこちらを見つめてきた。 何故か酷くやつれたその将校はそっと此方に会釈し、スコットランド軍将校もそれに習う。 慌てて煙草を口から離し、出来るだけ丁寧に会釈して連絡艇の方を目指す。 相手は軍人さん達だ。あんまり長々と観察するのはよろしくないだろう。そう、判断して。 陸島へ向かう連絡艇の中。 先程の将校がぐったりと席にもたれ掛かっていた。 そして、冷たいハンカチを彼のおでこに当てているスコットランド軍将校。 「すみません義兄さん。姉さんがまた無茶したみたいで」 「いや……大丈夫だエンドリー。ラーゼが心配性で嫉妬深いのは相変わらずの事だしな」 「はい……姉さんが女性らしくなったのは個人的には嬉しいんですが、行き過ぎるのも考え物ですね」 「全くだ。子供を産んで少しは落ち着いたかと思ってたが……本気で枯れるかと思ったぞ」 ダークエルフ氏族の魔術師の長を娶った将校は呻くように呟き唸った。 そんな将校を技術者達は不思議そうに、スコットランド将校は労りを持って、陸海軍青年将校は共感を含めた同情の目で見つめた。 「全く……僕らより遙かに年上なのに。いい年して若妻ぶってもしょうがないのになぁ」 「え、エンドリ!いい年して発言禁止っ!!」 後に、エンドリーは当然のように魔術で監視していた偉大な姉から折檻を受けたという。 異種種族の結婚。ヒューマノイドとして比較的近い存在である日本人とダークエルフでも、まだまだ問題は尽きないようだ。 完