『ゴイ氏の災難』 とある、帝国領から遙か西に行った国にゴイと言う大領主がいた。 この男は数奇な人物で知られ、金にあかせた道楽や奇行を非常に好んだと言う。 そんなある日、東から異邦の軍人に率いられた探検隊が領地にやって来た。 丁度退屈していた彼は彼等を歓迎し、ご馳走を振る舞った。 宴もたけなわの頃、その軍人が甘い豆を磨り潰し甘い蜜で炊いた汁を啜りながらこう呟いた。 「懐かしい味です。小官の故郷の甘味に近い。ああ、もう一度小豆汁を腹一杯食べてみたいですな」 それを聞いた領主の目がキラリと輝く。 側近の者が気付いたらまた性もない事を思いついたと溜息を吐いただろう。 だが誰も気付かなかったので、止められる事もなく、領主は思い付きを実行した。 「よし、完全に同じものとは言いませんが、この汁であれば満足行くまで馳走致しましょう」 軍人の方も冗談だろうと思い、承諾の返事を返してしまった。 翌日、従者に起こされて領主の家の中庭に呼ばれた軍人と一行が見たモノ。 それは、俵に山と積まれた甘味料と小豆、そしてグラグラと煮詰めていく鍋の群れであった。 何十人の使用人と料理人が次々と小豆汁を作りお椀に盛っていく。 これ程の量を作るのは、この家が始まって以来の事だろう。 唖然としている一行の前に小豆汁で満たされた大量の椀が並べられ、満面の笑みで領主は叫んだ。 「さぁ、心行くまで賞味召されると良い。お代わりはたんとございますぞ!」 〜数時間後〜 「ふぅ……ゴイ殿。小豆汁大変美味でした。小官も部下達も、満足の極みです」 腹八分に膨れた腹をポンとたたきながら、軍人は満足げに笑う。 彼の後ろでは、鍋に残っている甘い汁を夢中で啜りまくっている部下達一行。 過労でぐったりとした使用人と料理人。スッカラカンになった俵と鍋。 そして、唖然とした表情で中庭の惨状を見ているゴイ領主。 「こ、これではオチがつかーん!!」 完