『 ○○のフルコースディナー 』 銀座のレストランで、テーブルを囲む5人の男。 1人は上質の背広に身を包んだ男。 1人は海軍の軍服に身を包んだ男。 1人は陸軍の軍服に身を包んだ男。 1人は陸軍の軍服に身を包んだダークエルフ。 残りの1人は着慣れない背広に身を包んでキョトキョトと辺りを見渡している男……獣人。 やがて、給仕が料理を運んでくる。 「前菜のゼリー寄せでございます」 肉を温野菜と共にゼリーで固めた前菜である。 背広姿の男と海軍軍人と陸軍軍人は恐る恐る口にし、顔を見合わせた。 ダークエルフは楚々とした仕草で食べ終えた。 獣人は恐る恐る口にし、美味いと解るとガツガツと食べた。 今度は給仕がスープを運んでくる。 「スープでございます。本日はコンソメ仕立てとなっております」 琥珀色の澄んだスープが全員の前に置かれる。 背広姿の男と海軍軍人と陸軍軍人はスプーンで一口分ゆっくりと啜った後、顔を見合わせ複雑な表情を浮かべた。 ダークエルフは音を立てずに静かにスプーンで最後の一滴まで頂いた。 獣人は皿から直接、くいっと一息で飲み干した。 パンとバターが出された後、給仕がメインディッシュを運んでくる。 「ソテーでございます」 やや濃厚なソースが添えられた100g程の香ばしい肉のソテー。 背広姿の男と海軍軍人と陸軍軍人は一切れゆっくりと噛み締めてから、やはり顔を見合わせてフォークとナイフを置いた。 ダークエルフは相変わらず礼儀正しく最後の一切れまで味わって食べ終えた。 獣人は嬉々として食べ終えた後、お代わりを注文しようとしてダークエルフに諫められた。 コースが終了した後、厨房からコック長が出て来る。 彼は不安と複雑な思いを押し殺したような表情で、5人の賓客に尋ねた。 「お味の方は……如何でしょうか?」 背広姿の男と海軍軍人と陸軍軍人は視線を泳がせた後、異口同音に呟いた。 「味は悪くない……んだが」 三人とも口切れが悪い。何かを言いたいようで、躊躇しているような。 そして、そんな微妙な空気を破ったのがダークエルフである。 ダークエルフは食後のアイスクリームが載っていた皿をそっと置くと、満足げな笑みを浮かべてコック長に告げた。 「大変美味しかったです。このような素晴らしい『オーク』料理は食べた事がありませんね!」 散々気に病んでいた固有名詞を聞かされ、長椅子にぐったりと腰掛ける背広姿の男と海軍軍人と陸軍軍人。 オークの容姿を直接なり写真なりで見ていた彼等にとって、今回の食事会は非常に不本意なものだったのである。 そんな、ぐったりとした3人とダークエルフを不思議そうな目で見る獣人。 彼の前には、食欲の無い3人から譲って貰ったアイスクリームの山が盛られていた。 完