『敢行の果て』 ドンドンドン 革張りの太鼓を叩く音が無数に轟く。 カンカンカンカン 象牙で作られた木琴が太鼓に合わせるように打ち鳴らされる。 ハィッハィッハィッハィッ!! 楽隊の音に合わせるように、戦装束に身を包み、戦化粧を施した戦士達が踊りを舞う。 それらは、全て獣人だった。人間のままの姿で踊る者や、獣に変身して踊る者も居る。 槍を掲げ、盾を掲げ、雄々しい勝ち鬨を上げながら舞を舞う。 それを見守る無数の獣人の群衆も、熱狂の叫びを高めていった。 彼等の居る場所。 そこは密林の奥にある神殿。 広々とした石造りの神の社が連なる広大な神殿。 この世を司る新たな偉大なる存在を奉り、讃える神聖なる場所。 今日は、この神殿のシンボルたる存在が完成し、それを奉納する祝いの祭りである。 戦士達の踊りが佳境に差し掛かった時、メインストリートを神官達が列を為して歩いてくる。 幾重にも連なる荘厳な神官達が担ぐ御輿、其処に鎮座している総金製の紋章があった。 十六弁の八重菊を図案化した紋章。 その紋章を神殿の祭壇に奉納する為である。 やがて、神官達は本神殿の頂にある祭壇に辿り着き、恭しく紋章を祭壇の窪みに安置する。 それと同時に群衆の叫びも高まり、あらゆる音を吸い込むジャングルをも突き破らんばかりであった。 その声を、静かに最高位の神官が鎮める。 静かになった本神殿に、朗々と流れる神官の祝詞。 それが終わると、彼は後ろに振り返り大きな動作で頭を垂れた。 彼に続くように、辺りに控える神官や戦士達が一斉に敬意を持って頭を垂れた。 彼等の先に居る者。 それは、この地に降り立ち数々の偉業と奇跡を成し遂げた男。 この地の古き伝承に伝わる"その者、竜を伴いて緑の林に降り立つべし"。 まさに、彼は古き伝説より蘇った勇者であった。 大きなレッドドラゴン、十数人の着飾った獣人達を引き連れ男は祭壇の前から眼下に広がる群衆を見下ろす。 神官長が鎮めた熱狂が、偉大なる男に対する叫びによって再び爆発する。 『ツージィー!!』 『ツージィーツージィー!!』 彼等の叫びに男は暫く片手を上げて答えた後。 やおら、腰に下げていた軍刀を抜刀し大きく横に振りかぶった。 瞬間、群衆は沈黙する。これは、合図だから。男が示した合図だから。 静まった所で、男は大きな声で叫ぶ。 遥か彼方、男が旅立った地に訴えるように。 『大日本帝国……ばんざ―――――――――い!!』 両手を真上に振り上げ、大声で叫んだ。 『バンザーイ! ダイニッポンテイコクバンザーイ!!』 群衆や周りの神官戦士達も続けて叫び続ける。 大地を揺るがし、数多の木々をも震わせる程の唱和。 彼等は彼等の勇者を生み出した遥か遠方の『日出づる国』。 勇者の祖国を讃える三唱令を何時までも繰り返した……。 そこは、遥か彼方の地。 しかし、そこは確かに帝國最西領である。 その領土を平定した男の存在を、まだ、帝國は知らない。 完