『飯の価値の相違』 野戦病院 関係者配給所 日本軍側 「うん、美味い!」 「うん、美味ぇな!」 二人の日本兵が丸太で作った簡単な椅子に腰掛け、握り飯を貪り食っている。 大きな塩にぎりが数個、副食としてこの世界の魚の丸干しを炙ったのと惣菜缶詰が一人一缶。 見方によっては非常に粗末な食事である。 それでも、この二人―――いや、つい先日大陸へと派遣されて来た彼等の連隊にとってはまさにご馳走だった。 「あ〜、幸せだよなぁ俺等。確かに大陸は血生臭いけどこうして毎日銀シャリが食えるんだもの!」 「ああ、この喉越し。歯応え。堪らないよなぁ〜俺、本土に居た頃食事の時間に毎回思い浮かべていたよ!」 彼等の脳裏に、本土での地獄の食事風景が思い出される。 山盛りの薄切り肉と、申し訳程度の飯。 そして、山盛りになっている何だか湯がいただけの野菜だか雑草。 毎日それの繰り返し。まさに悪夢である。 気丈な班長が根を上げた位だから、一般の兵士の苦痛たるや想像以上なのだ。 そんな悪夢な食事も今は昔。 幸せ一杯の気持ちで塩にぎりを頬張る二人。 途中、近くに座っていた少年の視線に何かむかつくものを感じたが、今の彼等にはそんな事より飯を喰らう事の方が先決なのだ。 最初の1個はまず、塩だけで食べて銀しゃりの旨味を存分に堪能し。 それから、干物や缶詰の中身と一緒に味わうのが彼等の食べ方である。 「大和煮の肉、少し貰うぞ」 「いいぜ……あ、お前それ海老そぼろか?」 「ああ、そうだ。お前、海老が好物だっけ?」 「おう、大好物さ! ……最近は娑婆でもめっきり喰えないから口寂しくてしょうがなかったんだけどな」 日本の魚介類の漁獲が厳しく制限されていた頃である。 国産の海老ももちろん漁獲量が厳密に定められ、大衆の口に入る事は滅多に無くなっていた。 獣肉?や魚肉?が優先的に配給される軍だと尚更食べれる筈がない。 こうして、外地へと派兵された部隊に支給される缶詰は、それらの例外である。 ……筈だったのだが。 「なぁ、この海老って本当に海老なんだろうかね?」 「……この世界の似た生き物で代用してるって噂の事か?」 「ああ、味は確かに海老なんだけどなぁ……美味いし。だけど、"元"が何か解らないと不安だろうよ」 「んな事どうでもいいじゃないか。こうして"海老"の旨味が堪能出来るんだ。文句は言えないぜ」 気味悪いのは当たり前だろう。 しかし、例え"海老風味"だろうと喰えないよりはよっぽど良い。 海老好きな日本兵はそう言って笑うと、ヤケに大きなおぼろの破片をひょいと口に放り込んだ。 「うん、美味い! これの"原料"を見つけた奴に感謝しなきゃな!」 同時刻 マケドニア王国某所 「うぇっくしょい!!」 「おや、どうなされた派遣参謀殿?」 「い、いや……小官の噂でも流れているのかな……ずずっ」 完