「前方海上に目標を発見!」 「いよいよですね」 「ああ……ついに時が来た……」 「取り舵20度!機関最大戦速!」 「提督。我々は勝てるのでしょうか?」 「勝たなければならない。負けは許されんのだ!」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「襲来!!」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 1300時 戦艦「大和」  大和、武蔵、長門、陸奥  帝國海軍が誇る戦艦郡である。 「目標との距離は三万五〇〇〇を切りました」 「全艦、主砲斉射!!」  号令と共に大和が主砲を放つ。  18インチ砲が轟音をとどろかせる。 「目標に命中弾!」 「その調子だ!撃って撃って撃ちまくれ!!今こそ大砲屋の意地の見せ所だ!!」  武蔵、長門、陸奥も次々に主砲を放つ。  しかし… 「も……目標は未だ健在!」  そこには奴がいた。  しかも無傷である。 「そんなバカな!!」  世界最大最強の戦艦をもってしても奴を倒すのは無理なのだろうか。  そんな中、 「まさか……」  参謀として乗り込んでいたダークエルフの中佐が呟いた。 「中佐何かわかったのかね?」 「はい。奴から魔力を感じます」 「それはどのような意味かね」 「これは憶測ですが……奴は防護結界を張っている可能性があります」 「しかし、奴は竜だぞ?竜が魔法を……」 「長い年月を生きた竜は人語を話すと言われています。中には魔法を使う竜も現れるのでは……」 「何と言うことだ……」  ――――絶望  そこにいる誰もがその言葉を思い浮かべた。 1315時 戦艦「武蔵」 「畜生。このままでは連合艦隊が……」 「提督……」 「…よ〜し、無理を承知でやるしかない!!」  武蔵に乗っていた中将は辺りを見渡し言った。 「最大戦速!目標に向け突撃ッ!!」 1318時 戦艦「陸奥」 「武蔵に遅れるな!!」 「突撃だ!!」 同時刻 戦艦「大和」 「武蔵が奴に突撃を!!」 「陸奥も続いております!!」 「長官!我々も!!」 「……行くか!!」  艦隊司令は決断した。  相手が防護結界を張ってるならそれを打ち破るまでだ。 「面舵いっぱい!最大戦速!目標との距離を詰めろ!!長門に打電するのも忘れるな!!」  その時… 「長官!アレを!!」  奴の周辺に発光現象がおこる。  その光はやがて収縮していき、ちょうど奴の口のところに球体のような形となって形作られた。 「まずい!」  奴より発せられた雄たけびを合図に一筋の光の渦が一直線上に走る。  その光の渦の先にあったのは武蔵であった。 轟音 「武蔵の艦橋が……」  彼らが見たものは黒煙を出しボロボロとなった武蔵。  沈没はしてないにしても大破である。 「魔力を圧縮して放ったのか……」 「魔法の槍と比較にならん……」  だが、彼らに驚いている猶予などなかった。  奴は次の標的を見つけたからだ。  武蔵の後に続いていた陸奥である。 1325時 戦艦「陸奥」 「総員衝撃に備えよ!!」  それが彼にとって最後の言葉になった。 同時刻 戦艦「大和」 「陸奥が一撃だと…」 「呆けている場合か!!」  一喝する。  しかし、武蔵、陸奥と帝國海軍が誇る戦艦がやられてしまうことは士気に大きく関わった。 (万事休すか……) 「長官!!」 「どうした?」  今度は大和を狙うつもりか? 「武蔵が……武蔵が動いてます!!」 1330時 戦艦「武蔵」  武蔵の機関はまだ生きていた。 「お…面舵……10度………目標との距離は…一万を切っている」  しかし艦橋は地獄だった。  彼も肩から大量の血が出ている。 「フ……フハハハ……」 「提督?」  狂ったように笑い、彼は命令する。 「砲術長!第一、第二砲塔いつでも撃てるようにしておけ!」  痛みはなかった。だからこそ冷静になれたのだろう。  「この場で死ねるなら本望だ!だが、その前に貴様だけは道連れにしてやる!!」  海竜が再び魔力を圧縮させる。まだ動いている武蔵に止めをさすのだろう。 「主砲発射準備良し!!」 「よぉし!!!放てぇー!!!」  轟音と共に六発の46cm砲弾が放たれる。 「フハハハ……行けよ!!目にもの見せてやれ!!!」  そして一筋の閃光が彼の目に写った。 1345時 戦艦「長門」 『ギエエェェェ!!!!』  海竜は狂ったように苦しみ、叫んでいた。 「武蔵が防護結界を破ったのか!?」 「そのようです!」  あの瞬間、海竜は武蔵が主砲を放つとは思っていなかった。そのために防護結界に廻していた魔力まで圧縮していたのである。  おかげで第一砲塔からの三発が防護結界を破り、第二砲塔からの三発は海竜に直撃したのだ。 「艦長!大和、発砲しました!!」  千載一遇の勝機である。これを逃す訳にはいかない。 「我々もやるぞ!!主砲発射!!!」  残された大和と長門が飽和攻撃を加える。  必中をきした十数発の弾丸は海竜に防護結界張らせる暇など与えなかった。 『ギエエエェェェェ!!!!!!』  全身から血を噴出した海竜。  息も絶え絶えの状態であり、誰の目に見ても勝負はあった。 1355時 戦艦「大和」 「終わった……」 「長官!奴が!!」 「!!!」 同時刻 戦艦「長門」 「大和が……」  奴の最後の意地なのだろうか。  残された魔力を放出し、大和に一撃をあたえたのだ。  何とか浮んでいるが本土までもつかどうか… 「ぼやっとするな!救出を急げ!!」  この海戦で武蔵、陸奥が沈没。大和も大破後沈む。  結局、生き残った戦艦は長門だけであった。 皇紀2665年 「どうですか大塚さん?」 「いい出来だね」 「そう言っていただけると光栄です」 「もういいかね?」 「はい。監修ありがとうございました」   ・   ・   ・ 「あれからどのくらい経ったのか」  老人がポツリとつぶやく   「あの海戦を経験した奴は数えるほどになっちまったよ。お前をふくめてな……」  彼の目の前には巨大な戦艦があった。  あの海竜との戦いを生き残った長門である。 「お互い年を取ったな」  その後、戦艦が活躍することはなかった。  時代は空母へと完全に移り変わり、戦艦が作られることもない。  あの戦いが戦艦の最後の海戦になったのである。 「あの戦も今じゃ過去の物語にすぎないか……」  長門は現在記念艦として呉に静かに浮んでいる。