テロリストを狩る者たち 0.  帝國の首都、帝都にある一つのビルの屋上でそれは行われていた。 「遅い!!」 「ぐああぁぁぁ」 女が放った電撃魔法によって男はその場にくずれおちる。 よく見ると二人とも耳が長い。どうやらエルフ族のようだ。 「クソッ、ダークエルフめ!」 「時代は変わったんだ。世の中に不満があるなら自分を変えろ。それが嫌なら耳と目を閉じ口を噤んで孤独に暮らせ。それも嫌なら……」  そのまま捲し立てようとしたが通信が入る。 『少佐。全員に召集をかけろ。場所は……』 「聞いた?バトル」 『ああ、聞いてるよぉ』 1.  帝都のある料亭で事件は起こっていた。  料亭で働いていた芸者数人が外務大臣一行を拘束したのである。 『少佐、軍が介入したがっている。背中に用心しろ』 「ご親切にどうも。バトル」 『まだ移動中』 「戸草、石川」 『少佐、マナが乱れてる。特定に二時間はかかりそうだ』  一介の芸者にこのような芸当はできない。  となると何者かに操られている可能性が大きい。 「戸草、中庭に出て突入に備えろ」 『了解』 「斉藤」 『だめだ、木が多く狙撃可能範囲は狭い」 「バズ、ボーム」 『いつでも』 「芸者を操っているエルフが近くにいるはずだ」  今回の事件は、俗に『人形遣い』と呼ばれる魔術師が事件に関与しているのだろう。  しかも一度に数人もの人間を操るなど並大抵の魔力では不可能である。 「私が芸者に接触して魔力の流れを読む」  その時、大真面目に任務を遂行している彼女に対してバトルが軽口を叩いた。 『少佐、これを機に芸者が待遇の改善を要求してきたら……』 『あんたは……』  そんなバトルを無視して彼女も位置に着く。 「全員そのまま。準備完了」 『よし、いけ!』 「突入!」 2.  料亭内に突入をした少佐は瞬く間に芸者たちを気絶させる。  戸草も同様に芸者を気絶させる。しかし、大臣を拘束していた芸者が拳銃を取り出した。  戸草は持っていた銃を芸者に向けるが躊躇してしまう。  人質を取っている相手は操られている民間人だ。しかも、当たり所が悪ければ弾丸が芸者の体を貫通し大臣に当たる可能性もある。 「クッ!」  躊躇する戸草を尻目に芸者は呪文詠唱を始める。 (こいつは………自己犠牲の!!!)  想定外の事態にあわてる戸草。  そこに駆けつけた少佐は躊躇することなく芸者に近づく。  彼女に気づいた芸者は詠唱をしながら拳銃を発砲するが、少佐はたやすくよけて芸者の顔に手をかざす。  すると芸者は糸が切れたように倒れてしまった。見てみると寝息をたてている。 (催眠か……しかも無詠唱でやっちまうとは……) 「ぼやっとするな戸草。課長、現場を制圧。人質1名が緊急医療必要。重度の外傷有。もう1名は頭部の損傷から死亡を確認。犯人はバトル達が追跡中」 『よし、大臣以下全員を外に誘導しろ。用心してだ。正面玄関にテント通路とワゴン4台を用意した。警戒は怠るな』 「了解」 「歩けますか?大臣」 「ああ、助かったよ。ありがとう」  感謝しながら大臣は立ち上がり落ちていた箱も手に取った。 3. 「どうした戸草?いきなり射撃訓練なんて始めて」 「別にいいだろ。……ところでダンナ、少佐ってダークエルフなんだよな?」 「そうだが、いきなりなんだ?」 「いや。あの時、少佐は獣人化しなかった。獣人化してれば、もっと早く対象を確保できたんじゃないかと思って……」 「あ〜………ちょっと来い」  バトルは戸草の首根っこを掴み部屋の隅に行くと辺りを確認しながら話し始める。 「ここだけの話だぞ……実はな、少佐はダークエルフじゃないんだ」 「ダーク……エルフじゃない!?」 「声がでかい!!………少佐はな、本当はエルフなんだ」 「でも!!………んなわけないだろ。だとしたらテロリストの一味じゃないか」 「それがだ、少佐はエルフの禁忌を犯しちまったんだよ。その所為で、ダークエルフの烙印を押されて里を追われたんだ」 「エルフの禁忌って?」 「それはな、人間に……」 「男同士がそろって内緒話か?」  その声に振り向くとそこには少佐がいた。 「よ、よう少佐」  吃りながらなんとかその場をごまかす。 「銃弾の中、自己犠牲魔法を無力化するとは見上げた根性だ。おかげで俺は笑いもんだぜ」 「魔法戦は先手必勝だからな。それより……」  少佐は戸草の方を見ると厳しい口調で言った。 「経費の無駄使いね。任務の度にあわてて射撃練習するくらいなら、肉体強化の術かけてあげるけど」 「それって、少佐の持ってる刀みたいにですか?」 「公私混同を命令で出すほど野暮じゃないわ。今日だって上出来だと思ってるわよ。でも貫通弾が人質に当たりそうだと思ったのなら、その場の判断で応用をきかせなさい。その9ミリ腰に下げてたんでしょ?もう……何のためにあんたを本庁から引き抜いたと思ってるのかしら。落ち込む暇があったら自分の特技で貢献しようと思わない?あたしたちが突入するまでの10数分間、なにが起きていたのか徹底的に洗うわよ」