魔法少女リリカルなのは×とらいあんぐるハート3SS 小ネタ「小さな故意のメロディ」  ※恭也35歳、フェイト19歳、キャロ10歳の時のお話です。 【前編】  とある休日の日のことである。エリオとキャロの二人は海鳴デパートを歩いていた。  (※ちなみにフリードはキャロの標準オプションなので、あえて数に入れていない。や、念のため)  この小さな可愛いカップルに、道行く人々の表情も自然と微笑んでしまう。ちょっとした注目の的だ。  ……だがもし他人が自分達をどう見ているかを知ったなら、二人は仲良く口を揃えて訴えることだろう。  これはデートではない、断じてデートなどではない、と。 「……近寄らないで下さい」 「そっちこそ!」  一応とある超重大案件で利害が一致するため共同戦線を張っているものの、互いに怨敵の子供である。  『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』とばかりに二人は犬猿の仲だった。  今回も何時もの如く罵倒し合……おやあ?   「ああ、本当ならおとーさんとデートの筈なのに……」 「ああ、本当ならフェイトさんとデートの筈なのに……」  似た様な台詞を呟き、二人はがっくりと肩を落す。  ……始めは、別々だった。  キャロは恭也と、エリオはフェイトと、それぞれ仲良く休日を過ごしていたのだ。  だが海鳴デパートの前で“偶然”この二組が出会ったことから、歯車が狂い始めた。  保護者達は暫し会話した後、『子供同士仲良くね(な)』との言葉を残して行ってしまったのである。  おかげでお昼の待ち合わせまで、二人は保護者と離れて別行動だ。 「フェイトさん、あんなダメ男のドコがいいんですか……?」  恭也の腕にしがみつこうとして蹴倒されながらも、めげずに恭也に引っ付いていったフェイトを思い出し、エリオは呻くように呟く。  管理局在籍12年目、35歳にもなって未だに陸士長の甲斐性無しなんか、絶対フェイトさんに相応しくないと思う。  (※士は最大でも5任期10年の筈なので、12年目は寧ろ『凄い』と評すべきだろう。もはや管理局七不思議の一つか?) 「ああ、あんなヤツに渡すくらいなら、いっそ僕が幸せに──  げしっ! 「へぷっ!?」  後頭部に“徹”(モドキ)の篭った打撃を受け、エリオは奇妙な声を上げて床に転げ回った。  それをキャロが憤然と見下ろす。 「……誰がダメ男ですか?」 「くっ! 不意打ちとは卑怯な!」 「この程度、避けられない方が悪いんですよ。と言いますか、おとーさんの悪口言った人は滅殺です。わたし的に」 「くそうっ! 女だと思って下手に出てれば、いい気になって!」  ゆらりと立ち上がったエリオが、怒りの視線をキャロへと向ける。  と、キャロは意外にもにっこりと笑って応じた。  にっこり (う゛、可愛い…… ――はっ!?)  ガン! ガン! ガン! ガン!  不覚にも可愛いなどと思ってしまったエリオは、壁に頭を打ち付けながら必死に自分に言い聞かせる。  騙されるな、エリオ! 見かけは可愛くても、中身は最悪だぞっ!?  だがそんなエリオの奇行を無視したキャロの次の一言で、エリオは一気に現実へと引き戻された。 「なら、遠慮なく全力でどうぞ♪」 「あ、やっぱりいつものキャロだ……げふうっ!?」  先を潰した飛針を鳩尾にぶつけられ、エリオは堪らず蹲る。  投げたキャロは、額に青筋を浮かべていた。 「あはははは、男の人でわたしを呼び捨てにしていいのは、おとーさんだけですよ?  いつも言ってるでしょう? エリオくん……いえエリオ・モンディアル三等陸士?」 「も、申し訳ありません。キャロさん……いえ高町キャロ三等陸尉殿……」 「――で、かかって来ますか?」 「……いえ、ゴメンナサイ」  『くそう、今に下克上してやる』と思いつつも、エリオは頭を下げる。  そうだ、タイガーキョウさんだって言ってたじゃないか。『明日のために、今日の屈辱に歯を食いしばって耐える。それが漢だ』って。  情けない、と言う無かれ。エリオは決して弱くない。  僅か10歳にして既にBランクの陸戦魔導師であるという事実が、何よりそれを証明している。  ……だが相手が悪すぎる。何せ彼の目の前にいるのは、総合Sランクの戦闘魔導師であると同時に、 真竜“ヴォルテール”を筆頭に百を超える竜や高位魔獣を従えるSランクの召喚魔導師でもある“竜王”高町キャロだ。  ぶっちゃけどんな手を使おうが敵う相手では無い。  そんなエリオを見て、キャロは大きな溜息を吐く。 「情けない…… 仮にも“雷帝”の秘蔵っ子なのでしょう? おとーさんの様に、とまでは言いませんが――」  そこまで言いかけ、絶句した。  そして、驚いた様にエリオを……いや、エリオの向こうの売り場を見る。 「あ、あれはっ!?」 「?」  不思議に思いエリオが振り返ると、そこはぬいぐるみ売り場だ。  ……もしかして、気になる人形か何かでも見つけたのだろうか? (に、似合わない……)  込み上げてくる笑いに、エリオは思わず口元を押さえた。  あんな乱暴な女に、人形やぬいぐるみなんて絶対似合わない。  いつも手下として使っている、“本物の”凶悪魔獣共の方が遥かにお似合いである。  いったい何を見つけたのやら、とエリオは興味深々で駆け出したキャロの後を追った。 「やっぱり“きょーやさん”だっ!」  大人一抱え分もあるであろう、巨大な黒ウサギのぬいぐるみを高く掲げ、キャロは目を輝かせて叫んだ。  ちなみに“きょーやさん”とはこのぬいぐるみの身内内での愛称であり、現在のところ──  “はやて専用きょーやさん”  “なのは専用きょーやさん”  “フェイト専用きょーやさん”  “ヴィヴィオ専用きょーやさん”  ──の4体が確認されている。  だがキャロ専用は存在しない。いや、かつては専用(おとーさんから貰った!)の“きょーやさん”を持っていたのだが、 現在は妹であるヴィヴィオにとられて“ヴィヴィオ専用きょーやさん”となってしまったのだ。  キャロとしてもこれは痛恨の出来事であり、失った代わりを必死に探していたのだが、まさかこんな場所で見付けるとは…… (い、幾らだろ……)  ゴクリ、とキャロは息を呑んだ。  “きょーやさん”はとっても大きいし、素材も良好、作りも丁寧だ。きっとすごくすごく高いに違いない。  ……おこずかいで足りるかな?  キャロはプロ野球選手も真っ青の超高給取だが、教育上問題があるとしてお小遣い制だった。  (※額的には『その歳にしては多いかな?』程度)  故にそこまでの資金力はなく、恐る恐るワゴンを見る。  “きょーやさん”と手のひらサイズのぬいぐるみ達が置かれているワゴンには、以下の文字が書かれた紙が張られていた。  『どれでも3個で1000円』 「……………………」  ……いや、これは何かの間違いに違いない。  だって、クレーンゲーム(1回300〜500円)の景品みたいなぬいぐるみ達と一緒の扱いなんて、幾らなんでも……  キャロはそう自分に言い聞かせ、“きょーやさん”に取り付けられているであろう値札を探す。  あ、“きょーやさん”って本当は“おぷうな”さんっていうんだ。  ¥30,000→¥15,000→¥9,800→¥4,980→¥2,980→¥1,980→¥980→¥398 「“きょーやさん”…………」  何度も改定された後がある値札を見て、キャロは瞼の奥が熱くなった。  まるで自分の父がディスカウントされているようで、とても悲しかった。  ぎゅっ!  キャロは“きょーやさん”を強く抱きしめ、自分の顔を埋める。  ああ、苦労したんですね“きょーやさん”。けどもう大丈夫です、一緒におうちに帰りましょう……  実に感動的なシーンである。  ……だがそこに雰囲気ぶち壊しな一言が、キャロの背後から聞こえてきた。 「どれどれ…… うわっ、怖っ!? なんて目付きの悪いぬいぐるみなんだ。子供が見たら泣くぞ?」  ゆらり  この言葉を聞いたキャロから、大量の瘴気が発生する。 「…………エリオくん?」  振り返りもせず、酷く平坦な口調で言うキャロに、エリオは身の危険を感じて本能的に後ずさった。 「え? なに、キャロ……さん?」 「私、言ったよね? 『おとーさんの悪口言った人は滅殺』って」 「や、それはぬいぐるみ──」 「……言い訳はいいです」  がしっ!  その瞬間、エリオは突如出現した巨大な毛むくじゃらの腕により、背後から抱きすくめられた。 「!?」  恐る恐る背後を振り返ると、空間に裂け目が生じている。巨大な腕は、そこから生えていた。  そして裂け目の奥の深い闇の向こうには、ギラギラ光る目が── 「〜〜〜〜ッ!!??」  声にならぬ叫び声を上げ、エリオは必死に腕を振り解こうと試みる。  だがぴくりともしない。それどころか、徐々に裂け目に引き摺りこまれていく。  そんなエリオに、キャロは背を向けたまま淡々と告げる。 「その子は、第27管理世界のオウウ地方を支配していた熊型魔獣の赤カブ○さんです。  魔力ランクはA−ですが、元が強いので実際の戦闘力はAA−の陸戦魔導師クラスといったところですか。  ……どうです? 相手にとって不足はないでしょう?」 「不足どころか過剰だよっ!? 死ぬ、死ぬって!? ――僕がいったい何をしたってゆーのさっ!?」  エリオの悲鳴染みた抗議。  だがキャロはそれを黙殺し、“赤カブ○さん”に声を掛ける。 「赤○ブトさん、ちょっとエリオくんを鍛えてあげて下さい」 『ガウ!(わかりました、キャロさま!)』  魔獣のクセに、“赤カブ○さん”はキャロに恭しく頭を下げた。  ……どうやらキャロの手下の一体らしい。 「キャロさん!? ごめんなさい! 何が何だかよくわからないけど、海よりも深く反省してますから!?」 「……待ち合わせのお昼までには開放してあげますよ。たかだか90分程ですから、がんばって下さいね」 「鬼〜〜〜〜ッ!?」 『ガウ!(来い、小僧!)』 「い〜〜や〜〜〜〜 フェイトさ〜〜んっ!」  愛する人に助けを求めつつ、エリオは裂け目の向こうへと消えていった。  それを見届け、キャロは一仕事を終えたような表情で呟く。 「これでよし」 「全然良くないぞ、このバカ娘が」  ゴンッ! 「あうっ!?」  突然脳天に加えられた衝撃に、キャロは思わず蹲る。  そして、涙目で背後を振り返り――驚愕の声を上げた。 「お、おとーさん!? どうしてっ!?」 「こんな結界張れば、嫌でも気付くに決まってるだろうが」  ……嘘である。  恭也にそんな能力は無いし、フェイトは浮かれていたため気付きもしなかった。  ぶっちゃけノエルが気付かねば完全にスルーしていた所だ。  だがそんなことはおくびにも出さず、恭也はキャロを睨む。 「エリオをいじめるなと、いつもあれ程言ってるだろうが。  まったく、10歳にもなって魔獣集めてガキ大将気取りとは困ったものだ……」 「ごめんなさい……」 「悪い子にはお仕置きだ。 ……帰ったら、覚悟しておけよ?」 「あうう……わかりました……」  キャロは涙目で頷いた。 「うわ〜〜ん! エリオ〜〜〜〜ッ!?」  一方、フェイトは閉じかけた穴にバルディッシュをねじ込み、必死で広げようとしていた。  徐々に広がる穴に気付き、赤カブ○は左腕にエリオを抱えたまま、右手でフェイトに襲い掛かる。 『ガウ!(女、邪魔するな!)』 「うるさいッ! プラズマスマッシャー!」 『ガウ〜〜〜〜〜〜ッ!!??』 「うわああああ〜〜〜〜〜〜ッ!!??」 「…………あれ?」  二つ分の悲鳴に、フェイトは首を傾げる。  え〜と、今のはもしかして……  たら〜〜  冷や汗をかくフェイトの脇から、とりあえずキャロへの指導を終えた恭也が進み出る。  そして、広がった穴からよっこらしょとエリオを引き上げた。 「おお、実にいい具合に焦げてるな」 「エリオ〜〜〜〜ッ!?」  フェイトは慌ててエリオをその胸に抱かかえた。 「エリオ、ごめんなさい…… 私がもう少し早く気付いていれば、むざむざこんな……」 「お前がやったんだろうが、それは」 「ううう、やっぱり……」  恭也のつっこみに、フェイトは激しく落ち込んだ。  ああごめんなさい、エリオ。  ……でもね、あなたの犠牲は決して無駄にはしないわ。私、絶対恭也さんと幸せになって見せるから! 「うう、フェイトさん……」 「え、エリオッ! 良かった、目を覚ましたのね!」  ぎゅっ!  フェイトは喜びの声を上げ、エリオを強く抱きしめる。  そのおっぱ……いや、胸の感触に、エリオはたちまちふにゃふにゃとなった。 (ああ、幸せ……) 「せめて最期は……その胸で…………ガクッ!」 「ああ!? エリオ!?」  半泣きのフェイトに、恭也が呆れた様に声を掛ける。 「落ち着け、寝てるだけだ。 ……つーか、実に幸せそうな表情で寝てるな、コイツ」 「エリオ、昔からこうして私に抱かれて寝るのが好きなんですよ」 「……この歳でおっぱい星人か」 「はい?」 「……いや、なんでもない。それより、ウチのバカ娘が迷惑かけたな?」  そう言って、恭也が深く頭を下げた。  ……こういうことには、実に律儀な男である。  が、フェイトは優しくエリオの髪を撫でながら、首を振った。 「いえ、いいのですよ。 ……どうせ、エリオだっていつもの様に不用意な言葉でキャロを傷つけたのでしょうから」 「まあいきなりこんなマネしでかす程、バカ娘ではないと信じているが…… それにしてもやり過ぎだろう」 「キャロも女の子ですから、譲れないものがあるのですよ。 ……私もそうでしたから、よく分かります」 「ふむ……」  フェイトの言葉に恭也は一瞬考え込む。  が、直ぐに首を振った。 「いや、やはり駄目だ。キャロは自分の力を理解していない。  異次元に引きずり込み、魔獣をけしかけるなどもってのほかだ。  ……やるなら拳でやるべきだった」 「だから、ほかの人にはそうしてるじゃないですか。よほどの場合を除いて、ですけど」 「ううむ、確かに。 ……なら、何故にエリオだけ?」 「……さて、どうしてでしょうね?」 「おいおい、もったいぶらずに教えろよ」 「だって、言ったら恭也さん、きっとエリオを虐めますから」 「?」 「がんばって、自分で答えを出して下さいね?」  くすくすと笑うフェイトに、恭也は渋い顔を作った。  ……やれやれ、フェイト嬢も扱い難くなったものだ。