→④フェイトから借りる。



 真っ先に思い浮かんだのは、金色の髪と紅い瞳をもった少女の姿だった。

 ――フェイト・T・ハラオウン。

 “娘”はやてと“妹”なのはの親友にして、恭也の“元上司”で“教え子”で“希少な友人知人の一人”。
 「あの」二人の親友ながら、物静かで万事控えめな心優しき少女だ。
 まあ去年のクリスマスの一件(※「はじめてのぼうそう ふぇいと編」本編参照)以来、少々……
 いやかなりその評価もぐらついてきたが、それでもあの二人と比べれば雲泥の差だろう。
 ……時々、予想の斜め上を全力で“ぼうそう”することを除けば、の話だが。

「フェイト、か……」

 恭也は大きく頷いた。
 うん、確かに彼女なら理由も聞かずに快く貸してくれるに違いない。
 我ながらナイスアイデア――

「――って、ンな訳あるかっ!」

 だが直ぐに頭を壁にガシガシと叩きつけ、自分で自分につっこみをいれる。
 ……や、確かに親しくないと言えば嘘になる。客観的に見て、自分と彼女はかなり親しい間柄だろう。それは認める。
 だが……だが、である。彼女は「家族でもない」「まだ12歳の」「少女」なのだ。
 そんな彼女から金を借りるのは流石に――

「人として終わってるだろう、常識的に考えて」

 そう。「28歳の大人」以前に「男」としても完全に終わっている。
 これがなのはやはやてなら、まだ「家族」という免罪符がつくのだが……

「とはいえ、あいつらに金を無心したらどうなることやら……」

 はあ~と恭也は嘆息する。
 正直、一時的なお小言だけで済むとは到底思えない。“娘”“妹”として何らかの実力行使に出るに決まってる。
 その点、フェイトならばその心配はない……と思う。

「それでもなあ~」

 もう一度、嘆息。
 ぶっちゃけ、年下云々以前に「家族でもない女性から借りる」ということに抵抗感ありまくりである。
 ……やはりチワワ金融に行くべきなのだろうか?
 これはこれで生理的に受け付けないが、12歳の少女から借りるよりはマシかもしれない。

「だが、その選択肢は既に別の未来軸で選択済みだしな……」

 何気にメタな発言をしつつ、恭也は悩む。

「う~む」

 悩む。

「う~~む」

 悩む。

「う~~~~む」

 悩……

 はあ~~

「どうせ“天の声”には逆らえんしな……」

 たっぷり数時間悩んだ後、またもやメタ発言をしつつ、恭也はようやく重い腰を上げた。




――――第97管理外世界、海鳴。


<1>

 かさかさ……

 県下でも有数のお嬢様学校、私立聖祥学園。その中等部敷地に恭也はいた。

 かさこそ、かさこそ……

 だがまるで人目から逃れるかの様にこそこそと影から影へと移動していくその姿は、不審者丸出しだ。
 更に付け加えると(この行動で丸わかりだろうが)不法侵入だったりする。
 女子校に不法侵入。当然、見つかればタダでは済まない。公的にも私的にも制裁は必須だろう。
 そのような多大なリスク――尤も恭也自身は見つかる気も捕まる気もさらさら無かったが――を背負いながらも、一心にフェイトを探す。

「むう、フェイト嬢はいずこ……」

 かさかさかさかさ……

 まるで黒くてテカる”ヤツ”の如く、影から影へと素早く移動する。
 だが恭也は仮にも生徒(はやて)の父兄である。その気になればこんな真似せずとも堂々と正門で待っていられる筈だ。
 尤も、その場合は生徒達の注目の的。その痛い視線を一身に浴びる羽目となるだろう。 ……それは勘弁して欲しかった。
 何より――

「アリサ嬢とすずか嬢に見つかってしまうからな」

 恭也はぼやく。
 ……実は恭也、この二人と最近上手くいっていないのだ。ぶっちゃけ絶縁状態と言ってよい。
 というのも、去年こっちの世界の恭也を殴り倒してコートを奪った挙句、彼が警察に誤認逮捕される原因まで作ったことが
バレてしまったからである。(※「はじめてのぼうそう ふぇいと編」本編参照)

『アンタのせいかっっ!!』

『恭也さんの仇っ!』

 ……その直後、二人から怒声と共に渾身の一撃を喰らったのは言うまでも無いだろう。
 (さすが「こっちの世界の恭也」から護身術を習っているだけあって、腰と捻りの入った実にいい打撃だった!)
 以後、二人の恭也を見る目は、喩えるならば「はやて・フェイトと真逆」。最悪の一言だ。
 
「もし会ったら、どうなることやら……」

 恭也は苦笑する。
 もし会ったら……いや「学校に来た」と知られただけで、二人の表情は険しいものとなるだろう。
 そして、悪態の一つも吐くに違いない。
 だがその行為がもしもはやて達に知られた場合、少し不味いことになりかねなかった。

(……はやて達と二人は親友だからな。俺のことなんぞでケンカしてもらっては困る)

 故に、こうしてコソコソしている訳だ。
 自分が笑われたり馬鹿にされるのは構わない。

(……や、そりゃあ哂うだろう。常識的に考えて)

 直すつもりは更々無いが、自覚はしているのだ。

「とゆーか、はやて達の反応の方がむしろ謎なんだよなあ~」

 そう呟き、恭也は盛大に首を捻る。

 アリサとすずかの場合、恭也のマダオっぷりに好感度は下がりっ放しだった。
 仮に上の件がバレずとも、(今ほど決定的なものでは無いにせよ)何れ嫌われただろう。それが普通なのだ。
 だがはやて達の場合、何故かその逆に上昇し続けているから不思議である。
 幾ら“父”“兄”とはいえ、「オヤジ(兄貴)寄るなや(なの)!」となっても不思議では無いのだが……

「もっと分からんのがフェイト嬢だな……」

 何の繋がりも無い赤の他人なのに、何故自分にあそこまで好意を持てるのだろう? 実に世界は謎に満ちている。

「……もしやアイツ等、ダメな男にしか関心を持てないのか? ダメ専なのか???」

 主にできる女性が罹患する奇病、「ダメ男にしか関心がもてない病」。略してダメ専。
 ……もしそうだとすれば実に深刻だ。
 今はまだその幼さゆえか興味は身内(恭也)に限定されているが、やがて外へと向かうに違いない。
 父として兄として、そして知人として、彼女達の将来を心配してしまう。

「一度、誰かに相談してみるかな?」

 そう結論付ける恭也。
 だがコイツにそんな信頼できる友人はいない。いる訳が無い。
 そのことに気付き、軽くショックを受ける。

「ふ、俺は不器用な男だからな……」

 慌てて自己弁護する恭也。
 だが苦しい、かなり苦しい。

「俺は、剣を振るしか能が無いからな……」

 冷や汗と共に、再度自己弁護する恭也。
 ……ンなコトの逃げ道にされては、御神流もいい迷惑である。

「さ、さあ~て、そろそろ探索を続けないとな~」

 強引に話を終わらせ、恭也は行動を再開した。

 アホー

 昼だというのに、空で烏が鳴いていた。



<2>

 幸い、フェイトはあっさり見つかった。
 クラスメートだろうか? 生徒に囲まれ、出口から出てくる。

「ふむ……」

 思わず、恭也は感嘆の声を上げた。
 ……確かに、目や勘には自信がある。ましてや見知った顔、その捜索レベルはMAXと言っていい。
 だがこの広い校庭、それもこの人混みの中から、こうも容易く見つかるとは……

「……いや違う。『容易く』『見つかった』のではなく『真っ先に』『目についた』のか」

 実際、フェイトは目立つ。
 愛らしさの中に早くも美しさが顔を覗かせつつある容姿に、ぴんと芯が一本入った立ち居振る舞いが、
圧倒的なまでの存在感を醸し出しているのだ。
 そのせいか、周囲の友人が取り巻きにも見える(さじずめ「お姉さまと~」か?)。
 今は一年生だからこれで済んでいるが、下級生が出来たら凄いことになりそうだ。

「『“可愛い”というより“美人”、“美人”というより“凛々しい”』か。
 ……12歳の少女に言う台詞じゃあないよなあ」

 恭也は苦笑する。
 まあまだ「“凛々しい”というより“美人”、“美人”というより“可愛い”」のレベルだが、あと10年……いや5年もすれば、
さぞかし佳い女となるだろう。

「なのに、何故……」

 恭也は嘆息しつつ、念話を飛ばす。
 距離は直線で30m、周囲は開け遮蔽物は無い。
 ──うん、これなら俺でもなんとか届く。

『(あ~、フェイト嬢、フェイト嬢)』

 ――ッ!?

 これとほぼ同時に、フェイトの様子があからさまに変化した。
 喩えて言うなら「ご主人様の声を聞いたワンコ」状態で、慌てて辺りをキョロキョロと見渡している。

「……何故、俺の前だとこうも変わるんだろうなあ?」

 ……今の彼女からは、先程までの凛々しい姿はもはや何処からも見出せない。
 そのあまりにあからさまな変化に、恭也は重い重い溜息を吐いた。


『(恭也さん!? 何処、何処にいるのですか!?)』

 念話に応答しつつも、真っ先に居場所を尋ねるフェイト。
 恭也の魔力レベルを熟知しているので近くにいることは承知の上、その間にもキョロキョロと姿を捜し求めている。
 ……だが、さすがにここで見つかる訳にもいかない。

『(……アリサ嬢とすずか嬢はいないようだな?)』

 幸いアリサとすずかはいないが、恭也は念のため確認する(いたらどうするつもりだったのだろう?)。
 すると、フェイトは目に見えて不機嫌になった。

『(……なぜ、アリサとすずかのことを真っ先に聞くんですか?)』

『(近くいたら困るから)』

『(はあ~ まだケンカしてるんですか?)』

 これを聞き、フェイトは顔を顰める。

『(どうせ恭也さんが悪いに決まってるんですから、早く謝って仲直りして下さいよ。私達の大事な友達なんですから)』

『(……努力しよう)』

 ぶっちゃけ、もう二度と会う気は無い。
 心にも無い言葉で恭也は応じ、「そんなことより」と続ける。

『(とにかく、今はいないんだな?)』

『(あの二人なら、授業が終わった途端、飛ぶように消え去りました)』

 今日は護身術の日なんですよ、とフェイト。

『(……成る程。ならきっと今頃、高町家の庭の道場にいるな)』

『(いえ、流石にそれは時間的に無理かと。けど車ですから、もうかなり学校から離れてるでしょうね)』

 それだけ聞けば十分である。

『(ならばフェイト嬢、裏門で待つ!)』

 そう言い残すと、恭也は念話を打ち切ってその場を後にした。



<3>

 ……今日は、本当についてないと思う。

 先ず、一番の親友であるなのはとはやては管理局絡みで“公欠”。
 今まで「二人が二人ともいない」なんてこと、無かったのに……

 ……そういえば、中学に上がってからというもの、管理局からの呼び出しが飛躍的に増えた。
 やはり「ある程度成長した」と判断されたのだろうか? こなすべき任務、覚えるべき知識が今までの比ではない。
 今までのような半人前の甘い扱いではなく、いよいよ一人前の管理局員として扱われるようになってきたのだろう。

 無役の自分ですらこうなのだから、キャリア資格保有者である二人は尚更だろう。
 これからはこういった状況が“日常”となるに違い無かった。

(それでも、アリサとすずかがいるのだけれど……)

 はあ~~

 そこまで考え、フェイトは大きな溜息を吐く。
 いや流石になのはやはやて程では無いが、アリサとすずかだって親友だ。
 事実、彼女達が普段通りに接してさえくれれば、フェイトとてこうして愚痴ってはいなかっただろう。
 ……そう、「普段通りでさえあれば」。

 『う、うふふふふふふ……』

 『こっ……これって、どう考えても…………』

「……………………」

 横から聞こえてくるアレな台詞に眉を顰めつつ、フェイトは二人を横目で見る。

 『お風呂、勝負下着……』

 『わ、わたし、恭也さんとこんなことを……』

 そこにはピンク色に包まれた色ボケ……いや、アリサとすずか。
 アリサは両手を組んで天井をぼうっと見上げ、
 すずかは柔道?の本を食い入るように眺めている。
 心ここにあらず。二人とも朝からずっとこんな感じである。
 ぶっちゃけ、関わりあいたくなかった(まあ二人とて、まともに相手にしてくれるかは甚だ疑問だったが……)。

「……………………」

 フェイトは視線を逸らし、軽く首を振る。
 ……実はこの二人、「こっちの世界の恭也」から護身術を習っていて、今日はその稽古日なのだ。
 とはいえ普段はここまで症状は酷くない。せいぜいハイになる程度だ。
 だがどうやら本日の授業内容は組み打ち……より正確には“寝技”らしく、朝からずっとこんな感じである。

(まあ気持ちは分かるけど……)

 フェイトは軽く嘆息する。
 自分とて恋する乙女、その気持ちは分かる、分かるのだが……もう少しTPOを弁えてはくれないだろうか?
 お陰で、自分は朝から――

「はあ~~」

 つっこみ所満載――自分だって他人のことを言えない――の思索にふけりつつ、またも溜息を吐くフェイト。

「あ、あの……」

 そんな彼女に、一人クラスメートが声をかけた。
 背の低い、愛らしい少女だ。

「な、なにかしら?」

 フェイトは誤魔化すようににっこり笑い、よそ行きの口調で訊ねる。

「お昼、ご一緒しませんか?」

 ……そういえば、もう昼休みだ。
 そろそろ食事をとらねば、お昼抜きになりかねない。

(う~ん、折角だからお誘いを受けてみるかな……――――!?)

 そう考えたフェイトは頷きかけ、だが直ぐに絶句する。

「「「「…………」」」」

 なんと、声を掛けた少女の背後には、返事を待つクラスメートの集団。

「……………………」

「あの……」

「!? え、ええ、誘ってくれてありがとう。じゃあ、ご一緒しようかしら……」

 そのオーラというか圧迫感に押され、フェイトは思わず頷いてしまう。
 と、少女は目を輝かせ――最敬礼した。

「ありがとうございますっ!」

「え~と……」

 この言葉と行動にどうリアクションしたらよいのか分からず、フェイトは曖昧に笑う。
 そんな彼女に、少女は上機嫌で提案した。

「フェイト様! 今日は良い天気ですので、中庭で食べるのはいかがでしょう?」

「様付けは――」

「さあ行きましょう、お姉さま!」

「あの、私達同級生……」 

「「「「さあさあさあ!」」」」

「……………………はい」

(……これって、新手のイジメ?)

 だが、もはや断れる雰囲気ではない。
 反論を諦め、フェイトはまるで大名行列の如く少女達を引き連れ――実際は逆だが――て中庭へと向かう。

 はあ~

 ……気が重い。朝からずっとこんな感じである。
 何時の間にか、集団の中心……どころか祭り上げられている自分。
 その外見とは裏腹に酷く人見知りするタイプであるフェイトにとって、それは拷問にも等しかった。

(一人か二人、対等で、なら大歓迎なんだけどな……)

 はあ~~

 連行されつつ、心の中で盛大な溜息を吐く。
 もしそうなら、私も勇気出して……
 そうしたら、本当のお友達になれたかもしれないのに……

(本当、ついていな……)

 空を見上げ、フェイトは心の奥底でぼやいた。



 放課後。
 昼同様、フェイトは少女達に“連行”されていた(アリサとすずかは授業終了と同時に消えた)。
 ……なんでも、これからあちこちに“連行”されるらしい。ダレカタスケテ……

 と、その時だった。

『(あ~、フェイト嬢、フェイト嬢)』

 突如、フェイトの頭の中に声が響いてきた。
 念話である。しかもこれは――

(恭也さんっ!?)

 フェイトは驚き、必死になってその姿を捜し求める。
 だが、幾ら探せど恭也の姿は見つからない。

「恭也さん!? 何処、何処にいるのですか!?」

 不審気に見る少女達を誤魔化すため……と言うより殆ど無意識に携帯電話を取り出し、念話と同時に声を飛ばすフェイト。

(恭也さんの念話可能距離は、最良の環境下でも50m以下の筈……)

 だから、すぐ傍にいることは間違いない。
 だが……

(あうう、見つからないよ……)

 一向にその姿を見つけることは叶わない(それどころか応答すらしない!)。
 ……もしや、本格的に姿を隠しているのだろうか?
 だとしたら、アマチュアレベルの心得しかないフェイトが(五感のみで)見つけることは不可能だ。

(……こうなったら、捜索魔法を使うしかないよね?)

 痺れを切らし、遂にフェイトは決断する。
 多人数に注視されている状態での魔法駆使、普段ならば考えもしない選択だ。
 だが恭也のことで頭がいっぱいの今、ンなこと知ったことではない。
 愛は全てに優先されるのだ。

 フーッ、フーッ……

(大丈夫、ばれっこありません。この程度の魔法、呪文も前動作も視聴覚効果もカットして発動してみせますよ♪)

 不敵に笑うフェイト。
 ……朝からの“苦行”と“おあずけ”が相乗したのか、どうやら“ぼうそう”しかけているようだ。

(ふふふ……恭也さん? 私から隠れようったってそうはいきませんよ?)

 そして、フェイトが今まさに発動しようとした瞬間――

『(……アリサ嬢とすずか嬢はいないようだな?)』

 恭也からの、二度目の念話が届いた。

 む~~

「……なんで、アリサとすずかのことを真っ先に聞くんですか?」

 だがこのあんまりな言葉に、フェイトは正気に戻るも目に見えて不機嫌になった。
 ……何故、真っ先に他の女の子の名前を出すのだろう?
 私は、恭也さん以外の男の人なんて考えたこともないのに……

 と、恭也のうんざりしたような念話が届いた。

『(近くいたら困るから)』

「はあ~ まだケンカしてるんですか?」

 その返答内容に少しホッとしつつも、呆れるフェイト。
 だが、ふと気付く。

(……そういえば恭也さん、ここ最近ずっとアリサやすずかと仲悪いよね?)

 滅多に顔を合わせることの無い三人だが、偶に会ったり話が出た時の様子から、あまり上手くいっていないことは薄々察していた。
 けれど、まさかここまで根深いとは……

(一体、何があったんだろう?)

 フェイトは首を傾げる。
 恭也とアリサ・すずか。当初から仲が良かった訳ではないが、逆に悪かった訳でも無い。
 なのに恭也がここまであからさまに避けるとは…… 本当、一体何があったのだろう?

 何れにせよ、自分の大切な人同士がいがみ合うのは楽しい話ではない。直接聞くのはもっと楽しくない。
 だからフェイトは文句を言う。

「どうせ恭也さんが悪いに決まってるんですから、早く謝って仲直りして下さいよ。私達の大事な友達なんですから」

『(……努力しよう)』

 だが恭也が返したのは、まったく気持ちの篭っていない言葉だった。
 ……どうやら仲直りする気は更々無いらしい。

『(とにかく、今はいないんだな?)』

 代わりに、念押し。

「あの二人なら、授業が終わった途端、飛ぶように消え去りました」

 こうなった恭也に何を言っても無駄だ。
 それが分かっているフェイトは、この問題を棚上げして質問に答える。
 すると、何処かホッとしたような声(念)が届いた。

『(……成る程。ならきっと今頃、高町家の庭の道場にいるな)』

「いえ、流石にそれは時間的に無理かと。けど車ですから、もうかなり学校から離れてるでしょうね」

『(ならばフェイト嬢、裏門で待つ!)』

「えっ!? ちょっと待って下さいよ! 恭也さん、恭也さんってばーーっ!?」

 一方的に会話を打ち切る恭也に、フェイトは慌てて念を送る。
 が、既に近くにいないのか、うんともすんとも言わない(なんて素早いのだろう!)。

「もう…… いつも勝手なんだから…………」

 「しょうがないなあ~」とフェイトは嘆息する。

 「裏門」と言っても一つではない。中等部だけでも二つあるし、初等部や高等部、大学部を含めれば更に増える。
 ……まあ常識的に考えれば「中等部の裏口」だろうが、恭也は時々突拍子も無い行動に出るから油断できないのだ。

「……本当、しょうがないんだから」

 くすくす

 口から出る台詞とは裏腹に、フェイトはさも嬉しそうに笑う。
 ……それはそうだろう。
 何せ、「あの恭也」がわざわざ学校に押しかけてまで自分に会いに来たのである。嬉しくない筈が無い。

(一体、何の用だろう? 早く行かなくちゃ……)

 手にしている携帯電話をしまうことすらもどかしい。
 フェイトは逸る心の命じるまま、恭也に会いに行くべく駆け出そうとする。

「…………あ」

 ……が、そこで思い出した。
 自分が「クラスメートに囲まれていた」ことを。
 自分が「これから彼女達と出かける予定だった」ことを。

(しまった……)

 フェイトは慌てて周りを見る。

「「「「……………………」」」」

 そこには、信じられないものを見る様なクラスメート達。

(困ったなあ、皆になんて言おう…………)

「え~~っと……」

 目の前の難題に、フェイトは引きつった笑顔を浮かべつつも、口を開いた。




 未完?








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