魔法少女リリカルなのは×とらいあんぐるハート3SS 小ネタ「恭也が友達を作るようです」  ※恭也27歳、はやて・なのは・フェイト12歳(小学校卒業直前)の時のお話です。 【前編】 <1>  さて、場所は“クラナガン・エクスプレス”――中の人は自嘲を込めて“ボトムズ”と呼ぶが――こと陸士第666部隊駐屯地正門前。  ここから少し離れたベンチに、いかにも場違いな少女達の姿があった。  高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての三人娘である。  ……陸海空のエリート中のエリートが揃いも揃って、こんなあらゆる意味で場末の部署にいったい何の用だろうか? 「恭也さん、遅いね?」  フェイトが腕時計を確認して首を傾げた。  どうやら恭也を待っているらしい(道理で先ほどから、そわそわしながら正門の向こうをちらちらしきりに眺めている訳だ!)。 「小うるさい上司に捕まって説教喰らっとるか、はたまた始末書の山にてこずっとるかのどちらかやろうなあ。  ……今までのパターン的に考えて」 「……それなら、私の補佐役を続けていれば良かったのに」  苦笑するはやてに、フェイトは如何にも「待ちきれません!」とばかりに足をぶらぶらさせながら、少しむくれたような口調で呟いた。  私が上司なら、昇進だってお給料だってちゃんとしてあげるのに…… 「あはは〜 いややなあ、何言うとんのやフェイトちゃん? あの時はあくまで一時的に貸してあげてただけやで?」  これを聞いたはやては、にこやかに笑いながら、だが額に青筋を浮かべてつっこみを入れる。  あの時はライバルやなかったから大目にみたけど、今はライバルやからな? 許さへんよ〜 「ふふふ」 「ははは」  顔を見合わせて笑い合うフェイトとはやて。  二人は親友であると同時に戦友、そして恋敵同士であった。 「「!」」  突然、フェイトとはやてが何かに気づいたかのように立ち上がった。  ……そりゃあもう、飼い主の帰宅を知ったワンコの如く。  直後、正門の内側から応援団ばりのだみ声が響き渡る。 「「「「「高町さん、本日のお勤めご苦労さまっしたーーーーッ!」」」」」  待ち人、来ませり。 <2> 「ああ、後はよろしく頼む」  いつもの様に衛兵司令以下衛兵達の最敬礼を受けつつ、恭也は門を後にする。  一介の陸士相手に士官下士官が頭を下げる。 ――この異様な光景を傍から見ていたはやてが、ぽつりと呟いた。 「……いつも思うんやけど、ここいったい何処の組事務所やねん」 「あ、あははは……」  はやての呟き……と言うかつっこみに、フェイトが苦笑する。  ……確かに体格のいい強面のおじさん達が一斉に頭を下げるその姿は、まるでTVに出てくるヤクザ屋さんを連想させる。  (※管理局式の敬礼でない所が、想像により拍車をかける!)。  シチュ的には、組幹部の外出といった所だろうか?  でも、とフェイトが目を輝かせた。 「でも、恭也さん凄いよね。まだ一士なのに皆から尊敬されて」 「ま、私のお父さんやからな♪ 当然や♪♪」  フェイトの言葉に、はやてがえへん!と胸を張った。 「将来、私が地上本部総長になったら、お父さんには中央防衛隊の司令官になってもらうんや〜♪」 「わ〜〜♪」  ぱちぱちぱち  はやての宣言に、フェイトが声援と拍手を送る。二人ともノリノリだ。  ちなみに中央防衛隊とは、ミッドチルダ世界に展開する地上本部最精鋭の隊である。  同隊は(本部)総長直属であることから、俗に“近衛師団”とも呼ばれる総長の懐刀的存在だ。  ……………………。  ……ま、まあ、所詮は子供の戯言である(彼女達はまだ小六だ!)。 「じゃあ私が本局総長になったら、恭也さんは中央即応集団の司令官だね♪」  負けじとフェイトも宣言する。  ちなみに中央即応集団とは、やはりミッドチルダ世界に展開する本局最精鋭の隊である。  各種緊急事態が発生した際に迅速に対処すべく編成された部隊集団で、(本局)総長直属の切り札的存在だ。  …………………………………………。  …………冗談……だよな?  何故だろう? この二人が言うと、どうも冗談に聞こえない。一抹の不安を感じてしまう。 「……………………」 「ん? なのはちゃん、さっきからどないしたん?」 「なのは……?」  はしゃぐ自分達とは対照的に、先程から黙りこくっているなのはに、はやてとフェイトは怪訝そうな声を上げた。  これを聞き、なのはははっとした様に顔を上げる。 「え!? あ、うん……ごめん。少しぼーっとしてた」 「大丈夫!?」 「大丈夫かいな?」  心配そうに見つめるはやてとフェイト。そんな中、恭也が近づき声を掛けた。 「おお、はやてになのは、それにフェイト嬢、待たせたな。 ……うん、どうした?」 「あ、恭也さん……」 「お父さん、なのはちゃんが少し変なんや」 「ふむ。なのは、大丈夫か?」  二人の訴えを聞き、恭也が真剣な顔でなのはを見る。  と、なのはは恭也を見上げ、ぽつりと小さな声で訴えた。 「あのね? 少しぼーっと……ううん、考え事してたの」 「考え事?」 「うん、あのね……」  なのはは一瞬口篭るが、直ぐに思い切った様に口を開いた。 「お兄ちゃん、男の人のお友達いるのかなあって」  ……その瞬間、時が止まった。 <3>  確かに、恭也の友人知人は少ない。めがっさ少ない。  ましてやそれが“同世代”の“男”の“友人”となると――  最もこの条件に近いと思われるザフィーラは、それより先に“家族”であるし、何より犬だ。  (※その証拠に、人形態でいるより獣形態でいる方が圧倒的に長い)。  次に近いのはクロノだが、年が一回り近く離れている上、両者曰く犬猿の仲である。  (※傍から見ればケンカ友達と言えなくも無いが、両者共に断じて認めない)。  ユーノはクロノ以上に年が離れている上、ザフィーラ同様フェレットモドキ。  そして……そして………… (思いつかん……)  内心、恭也は滝のような汗をかく。  ……もしかして、自分はかなりの社会不適合者なのではないだろうか? (いやいや落ち着け恭也、お前は友達を作れなかったんじゃない。作らなかっただけっ!)  ――と、自分の為に弁明してみる。 (そうさ! 何れ元の世界に帰る以上、広い交友など慎むべきだしな!)  これで理論武装完了、とばかりになのはを見る。  そして、咳払いを一つ。  こほん! 「あ〜、兄はな? 修行に忙しくて友達を作らないだけだ」  流石に元の世界に帰る云々などという核爆弾並の燃料を投下する訳にはいかないので、当たり障りの無い理由で誤魔化してみる。  ……あれ? でもこの理由、どこかで??? 「……じゃあ、元の世界にはお友達いたの?」 「!?」  じっと自分の目を見て問うなのは――妹――に、恭也は口篭った。 (……ああそういやコレ、元の世界で友達いない理由にしてたっけ。道理でデジャヴだった訳だ)  俺、元の世界でも赤星以外友達いなかったからなあ〜  その代わりと言ってはなんだが、女友達ならそれなりにいたけどなっ! 「……………………」(汗)  俺ってヤツは……orz  自己嫌悪に陥りかけた丁度その時、ようやく再起動したはやてとフェイトが二人の会話に加わった。 「な、なんてこと言うんや、なのはちゃん!?」 「酷いよ、なのは!」  これに勇気付けられ、立ち直った恭也は内心で盛大な声援を送る。  おお! ナイスタイミング、はやて&フェイト嬢!  さあ! 二人で俺の濡れ衣を晴らしてくれっ! 「世の中にはな、『それをゆーたらあかん!』ちゅー言葉があるんやで!?」 「そうだよ、恭也さんが可哀想だよっ!」 (……ん?) 「でもね? 私、お兄ちゃんがお仕事とお買い物以外で男の人といる所を見たことないの。  いつも一人ぽつんとして、ご飯の時だって……」  だからとっても心配なの、となのは。  だがこの至極尤もな言い分に、フェイトとはやては大きく首を振る。 「それでいーんや! いいか、なのはちゃん? 『類は友を呼ぶ』言うてな、同性の友達はたいがい同類になるんや。  ……『お父さんの同類』やで? んなロクデナシ、おらん方がよほどええよ」 「をい……」  恭也の顔が盛大に引きつる。  お前、父のことをそーゆー目で…… 「そうだよ! それに同性のお友達がいたら、私……じゃなくて私達と一緒にいる時間が減っちゃうよ!」 「フェイト嬢まで……」  恭也の目が滲む。つい数ヶ月前まであんなに癒し系だったのに……  つーか、二人とも味方はしてくれても否定はしてくれないのですね。そーなんですね? 「――――!」 「――――っ!!」 「〜〜〜〜!?」  暫し恭也を無視して口論を展開した後、二人は埒があかぬとなのはの口を塞ぐ。  そして、実にイイ笑顔を浮かべながら振り返った。  にっこり 「お父さん? 私、お父さんに友達おらんでもち〜っとも気にせんよ?」 「私もです。それに、恭也さんには私がいるじゃないですか♪ 娘でも妹でもないこの私がっ!」 「…………」  恭也は無言で天を仰いだ。  卒業間近とはいえ、小学生の女の子達に慰められる27歳男……  男として大人として以前に、人として終わってる。  だから、つい言ってしまった。 「……いるぞ」 「「「ええっっ!!??」」」  3人の顔に、驚愕が浮かんだ。  いやまさか……でも1人くらいならもしかしたら…… 「俺にだってな、男の友達の1人や2人や10人や100人――」 「「「…………」」」  大風呂敷を広げすぎ、嘘はあっさりバレた。  だが、一瞬とはいえ騙された立場の少女達は怒らなかった。  ばかりか―― 「うっ……」 「お父さん…… そこまで……」  なのはは顔を伏せ、はやては絶句する。  ――って、ちょっ!? その反応、下手にドつかれるよりイタいんですけどっっ!? 「恭也さん……」  そっ  そんなグロッキー気味の恭也の手を、フェイトが優しく……だがしっかりと両の手で握り締めた。 「私、信じます」 「おお!」  恭也が歓喜の声を上げる。  が、それも一瞬のことだった。 「はい。ですから、何か美味しいものを食べに行きましょう。奢っちゃいます♪」 「……へ?」  慈母もかくやと言わんばかりの表情を浮かべ、恭也を見つめるフェイト。  それは、さながら(嘘を含めて)全てを受け入れんばかりの…… (信じてない…… まったくこれっぽっちも信じてない……)  「恭也さんが言うのなら、馬も鹿と呼んでみせますよ?愛ゆえに」と言わんばかりのこの態度は、 なのはやはやてのそれよりも遥かに効いた。  そして、これがトドメとなった。 「ちくしょーーーーっっ!!」  深く傷ついた恭也は、泣き叫びながら地平線の向こうへと駆けていった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【後編】 <4>  ――ハッ!?  暫し太陽に向かって疾走した後、ようやく恭也は我に返った。 (ここはいったい……)  周囲を見ると建物、車、人の群れだ。  どうやら荒地を横断し、市街区に突入してしまったらしい。 「ということは、20km以上走った訳か……」  その結論に、思わず呟いた。  無意識にハーフマラソン並の道程を走るとは、我ながら非常識にも程がある。  ……まあ、それだけショックだった訳であるが。 「畜生、あいつ等散々好き勝手言いやがって……」  ぐるる……  先の出来事を思い出し、唸る。  このままでは男として、年上として立場が無さ過ぎる。何としても見返してやらねばならぬだろう。  ……この男、つい数年前までょぅι゛ょのヒモだったクセに、妙な所で無駄にプライドが高かった。  (出会った当時8歳のはやてに丸々2年間も食べさせて貰ってたクセに!)。  そして現在においても尚、未だ完全に自立したとは言い難い。  何故ならほぼ毎週末八神家に赴き(帰り)、お相伴にあずかっていたからである。  それが彼にとり、タンパク質を補給すると共にノエルを懐柔させる貴重な機会でもあったりするから尚更だ。  余談ではあるが、八神家では週末といえばご馳走と相場が決まっていた。  はやて曰く「週末やからな〜」だそうだが、並ぶのが恭也の好物ばかりとあってはその本音が見え見えだった。  この様に、恭也ははやてから一方的かつ多大な“援助”を受けていた訳である。  ……まあその代わりと言っては何だが、愛情と言う名の麻薬をじゃぶじゃぶ与えてきたからギブアンドテイクと言えなくも無かったが。  (※依存性といい精神に与える影響といい、まさに麻薬だ!)。  閑話休題  恭也の呟きは続く。 「これは茶飲み友達の一人や二人作らんことには帰れんぞ……」  ……そんな理由で友達作ろうとしている時点で駄目駄目だった(おまけに今時茶飲み友達かよ……)。  とはいえ、ようやく男友達を作る気になったらしい。  これは小さな一歩に過ぎないが、恭也にとっては大きな一歩……なのかもしれない。うん、多分きっと。  だが―― 「……しかし、友達ってどうやって作るんだ?」 (赤星は、向こうから来てくれたしなあ……)  そう言って、恭也は首を捻る。  なんか計画は初っ端から躓いていた。 「しょうがない、こういう時は物知りに聞くか。 ――おーい! ノエルーっ!」  早々に自分で考えることを放棄し、ノエルに呼び掛ける。 《(ZZZ……)》  だが生憎とノエルは睡眠中(省電力モード)だった。  恭也の魔力でしか己を維持できない彼女は、仔猫並によく眠る。  故に、一度眠ると(余程の事態を除いて)中々目を覚まさない。  それでも根気よく呼び掛け続けると、ようやく目を覚ました。 《むにゃむにゃ…… ふわ〜 な〜に〜〜》  寝ぼけ眼?で欠伸をしながら返事をするノエル。  やはりと言うべきか、かなり眠そうだ。 「寝てたところを悪いが質問を一つさせてくれ。 ……友達って、いったいどうやって作るんだ?」  悪いことしたかな、と思いつつも聞いてみる。 《……なあに? ますたー、あたらしいおともだちがほしいの?》 「ああ。とゆー訳で、マニュアルとかがあったらぷりーず」  恭也のこのアホな質問に、ノエルは暫し「ん〜」と考え込む。 《じゃあ、なるべくひとどおりのおおいところにでてくれる?》 「? わかった」  言われるままに、恭也は人通りの多い大通りに出た。  土曜の昼前だけあって、道行く人も普段より多い。 「着いたぞ」 《ん〜、あ! じゃあ、あのまずあのこたちにしようか。 ――ますたー、わらってわらって〜》 「? こうか?」 《うんうん、いーよいーよ♪ じゃああたまからっぽにして、わたしがいうとおりにしてね? ごー♪》 「あ、ああ……」  訳が分からないままに、恭也はきゃぴきゃぴと話す中学生程の少女三人組に近寄り、声を掛けた。 「やあ! お嬢さん方、少しいいかい?」  暫くお待ちください。  暫くお待ちください。  暫くお待ちください。  一時間後、恭也の携帯には三人分の電話番号が追加されていた。 《ともだち3にんげっと〜♪》 「おお、たしかに――って、違う!」 《? ちゃんといっしょにおちゃのんで、でんわばんごーもおしえてもらったよ?》 「いや確かにそうだが、俺が欲しかったのは同世代の――」 《も〜、ますたーはわがままだなあ〜〜》  ノエルはしょうがないなあと大きな溜息を一つ吐くと、再び指南を始める。 《じゃあ……こんどはあのひとにしてみようか。 ――ますたー、まじめなかおおねがい》 「? こうか?」 《うんうん、いーよいーよ♪ じゃあまたあたまからっぽにして、わたしがいうとおりにしてね? ごー♪》 「あ、ああ……」  訳が分からないままに、恭也は頭が少し軽そうな……だがまあ美人のOL?に近寄り、声を掛けた。 「お嬢さん、少しよろしいでしょうか?」  暫くお待ちください。  暫くお待ちください。  暫くお待ちください。  一時間後、恭也は裏通りで荒く息を整えていた。  汗もだくだく、疲労困憊である。 「ぜえ、ぜえ…… おい、ノエル……」 《な〜に?》 「あともう少しでホテルに逝くトコだったぞ!? どーしてくれるっ!?」 《え〜? ほてるでおちゃのむんでしょ?》 「茶だけで済むか!?」 《? あっ! そーだね……ほてるのおちゃ、たかいものね…………》  ファーストフードのドリンクならまだしもマスターには無理か、とノエル。 「そーゆー問題じゃない! あと少しで素人さんに手え出すトコだったんだぞ!?」 《? しろーと? なんの? せんとーの???》 「…………」  思わぬところで無知なノエルに、恭也は嘆息する。  ああそうか、こいつ基本幼女だったっけ…… 「とにかくだな、俺が欲しいのは“同世代”の“男”の友達だ。あんだすたん?」  止む無く、恭也は話題を変えて本題に入ることにする。  が、これを聞いてノエルは目を丸く?して聞き返した。 《へ? おとこのこのともだち? ……“がーるふれんど”じゃなくて?》 「違う! つーか、友達とガールフレンドの間には深くて広い溝があるぞ!? 世間的に考えてっ!」 《…………》 「え〜と、ノエル?」  不機嫌そうなオーラを発して沈黙するノエルに気付き、恐る恐る声を掛けてみる。  と、彼女はきっぱりはっきり断言した。 《ますたーに、おとこのこのともだちなんて、できっこないよ》 「断定!?」 《だって、むこーのせかいの“ろぐ”みても、“がーるふれんど”ばっかりだし》  (人格を含め)本起動こそしていなかったものの、忍から渡されて所有権が委譲された時点でノエルは仮起動していた。  その目的は主に『本起動後の速やかなる環境適応』であり、それ故にノエルのメモリには膨大な情報データが蓄積されている。  情報データには当然恭也の私生活も含まれているが、ざっと見渡して男友達は赤星勇吾ただ一人のみ。  そしてその彼ですら、女性陣と比して圧倒的に共に在る時間が短かった。そう、質量共に。  ――この事実を指摘し、ノエルは改めて断言する。 《とにかく、ますたーにおとこともだちつくるなんて、おしゃかさまでもむり》 「そ、そこまでゆーか?」  つーかノエルよ、お前もか……  己のデバイスにまで裏切られ、恭也は絶望のどん底へと突き落とされる。 《それに、きょうははやてちゃんたちとあそびにいくはずでしょ? やくそくやぶるのはよくないとおもうな》 「…………」 《わたし、もういちどねるから、もうおこさないでね?》  ZZZ……  そう念を押し、ノエルは再び深い眠りに就いてしまった。  後に独り、恭也を残して。 <5>  ふらふら……  残酷な真実を突きつけられ、恭也は夢遊病患者の如く街を歩く。 (くっ! 友を作るのがこれほどまでに難しいことだったとは……)  その事実に打ちのめされる。 (俺は……俺では無理なのか?)  自問する。  自分は一生独りなのであろうか……  や、それは別にいいんだけどね? 「友達できないから独り」ってのはのーさんきゅー。  ――そんなことを考えていた彼に、声を掛ける者があった。 「会長!」 「ああ、お前らか……」  その声に、恭也が顔を上げる。  無意識の内に通い慣れた場所に足が進んだのだろう。気付くと、何時しか裏町に来ていた。 「「「見回りご苦労様です!」」」  男達が飛び出し、一斉に頭を下げる。  そう、ここは裏町の中でも恭也のナワバリ、彼が“町内会長”を務める地区だった。  ちなみにこの“町内会”とは隠語でも何もなく、世間一般で言われる町内会のことである。  だが、ただの町内会ではない。  というのも、このあたりは貧しい移民や不法就労者が多い。  当初はその相互扶助会として、現在では半支配組織として機能している地域団体。  ――それがここイーストエンドの町内会だ。  それ故に会費や新聞代等も高価であり、構成員も多くは専属となっている。  恭也の町内会は規模も小さくまた会費等も比較的安価だが、それでも目の前の男達を(安月給とはいえ)喰わせるだけの収入があった。 「どうだ、調子は?」  彼等の棲家となっている会所に入り、ソファに腰を下ろすと訊ねる。 「ウチのナワバリは裏通りで店も碌にありやせんからね。静かなものですよ」  男達の中でも兄貴分の男が、茶を出しつつ答えた。 「北と南の連中は? ちょっかいだしてこないか?」  出された茶を啜りながら、恭也は一番気になる点を訊ねる。  北と南の町内会はそれぞれ複数の町内会を有する大組織であり、噂ではクスリにまで手を出しているらしい武闘派集団だ。  この縄張りは両者の緩衝地帯として設けられた訳だから、責任重大である。 「ま、連中も面子でこのナワバリを争っていたようなものですからね。  ウチのナワバリになって、内心ホッとしていると思いやすよ?」 「南北が戦っても、お互い消耗戦だからな」 「会長を敵に回すことになりやすしね?」 「できれば関わりたくないんだがな……」  なんでこーなったんだろう?と恭也は呻く。  本当に人生とゆーものはままならない…… 「しかし会長、いったいいつまで管理局におられるんで?」  あんな安月給で扱き使われちゃあ敵わないでしょう、と男。  (※安月給とはいえ男たちの給料は恭也よりもいい。 ……とゆーか、恭也が低すぎるのだ)  確かに、ここのあがりは管理局で得られる収入より遥かに多い。  だが…… 「俺にとっては、な? 管理局での生活の方が本職なんだよ」 「そんなものでやすか?」 「そういうもの、だ。こんな俺でも、まだ家族と思ってくれる連中がいるからな……」  そう言って笑う恭也の視界に、伏せられた雑誌が入った。  何気なくぱらぱらと捲ってみる。と――  ある時は川原で殴り合い、またある時は死闘の果てに友情に目覚めるシーンが次々と出てきた。  友、強敵(とも)、漢(おとこ)の誓い……  その素晴らしい理論に、恭也は全身を振るわせる。 「これだっ! これこそ俺が求めていたものだっっ!!」  やっく・でかるちゃー                          ・                          ・                          ・  それから数時間後、南北の町内会連合が相次いで壊滅した。  ただ一人でこの惨劇を成し遂げた男は、両会長にデバイスを突きつけてこう叫んだという。 「へいっ! 今日からゆーも友達だっ!」 <6>  ――それから一月後。  クラナガン郊外の旧湾岸地区イーストエンド(通称“エリア88”)。  その中心部にある高級ホテルに、多くの男達が詰め掛けていた。  そんな中、多くの車に混じって一台の高級車が停車する。  ホテルマンが駆け寄りドアを開けると、中から老人と中年の男が降りてきた。 「議長、到着しました」 「ああ、ご苦労。しかし……」  老人はホテルを見上げ、大きく嘆息する。 「市議会議長のこの私が、マフィアのボスに頭を下げねばならぬとは……」 「議長、ここイーストエンドのマフィアは地域密着型、その収入は主に一般市民……即ち有権者の“カンパ”による合法的なものです」  老人の言葉に、運転手……いや秘書が声を潜めて忠告する。 「それでもついこの間までは無数の組織があり、無視できる存在でした。  ――ですがあの男がイーストエンドの全マフィアを統一した今、我々もその意向を無視できません」  あの男の意向次第でざっと10万の票が動く。  人口100万のイーストエンドにおいて、この数字は絶対的だ。 「“ともだち”には逆らえん、か……」  市長の車までもがやってきたのを見て、老人は自嘲気味に哂った。  ――とっ、もっ、だっ、ちっ! とっ、もっ、だっ、ちっ! とっ、もっ、だっ、ちっ!  大声援の中、壇上に一人の男が現れた。  顔は目玉と突き上げられた拳が描かれた黒の覆面で隠されており、上から下まで全身黒尽くめだ。  彼は演説台の前に立つと、演説を開始した。 「みんな、今日は俺の為に来てくれて本当にありがとう」  その声は、感極まって震えていた。 「だが―― まだだ! まだ足りないっ!」  一転し、今度は机を叩いて叫ぶ。 「今日はイーストエンド、明日はクラナガン、明後日はミッドチルダ全土に――俺はこの友情を広げていきたいっ!」  ――おおっ!  その言葉に、どよめきが広がる。  “ともだち”が世界制覇を宣言された…… 「世界に広げよう! 友情の輪を!」  ――明日は世界をっ!  聴衆の熱気と唱和が会場中に満ちていった。                          ・                          ・                          ・  講演後、男――いや恭也は覆面を脱ぎ、一人悦に入っていた。 「はっ、はっ、はっ。凄いぞ友情パワー」 《ねー、ますたー? これ、ぜったい“ゆうじょう”ちがうとおもう》  そんな彼に、ノエルがつっこみを入れる。  だが自信満々のこの男は、全く動じない。 「ふっ…… 友情には様々な形があるのさ……」 《そう……なのかなあ?》 「ああ、まだ幼いお前には分からんかもしれんが、拳を……剣を交わした漢同士には友情が芽生えるものなのだ」 《う〜ん、いわれてみればそうなのかも……》  本気でそう信じ込んでいる恭也と、それにあっさり丸め込まれるノエル。  駄目だこいつら…… 早くなんとかしないと…… 「よ〜し! ノエルが納得した所で、明日仕事が終わったらいよいよイーストエンドから打って出るぞっ!」 《おーっ!》  ――そんな時である。  ちゅど〜ん!  突如天井が破壊され、降り立つ三つの影があった。 「……親父、ここのところ週末碌に帰らんと、こんなトコで油売っとったんかい」  目にいっぱい涙を溜めながら、鬼の表情のはやて。 「恭也さん…… 私の誘いを断ってまでしたい大事なことって、もしかしてこのことですか?」  やはり目にいっぱい涙を溜めながら、悲痛な表情のフェイト。 「にゃー お兄ちゃん本物のロクデナシなの。『悪・即・撃』なの」  そして、頬を引きつらせているなのは。  トリプルブレイカーズ勢揃いである。 「お、お前ら……何故ここが……」  有り得ない事態に恭也は絶句する。  何故だ! この状況を防ぐために覆面をしていたのに、何故バレた!? 「全身黒ずくめで二刀差ししてれば、嫌でも分かるの」 「しっ、しまったーーーーっ!?」  高町恭也、一世一代の不覚である。  そんな彼に、宣告が下される。 「親父…… 覚悟はええな?」 「恭也さん、お願いですから一発撃たせて下さい」 「頭、冷やそっか?」 「ま、待て! 待ってくれ! 話せば分かる!」  ゆっくりと歩を薦める三人に、恭也は必死に声を掛ける。  が、その言葉はあっさり切捨てられた。 「問答無用や」 「こっ、ここは女人禁制だぞ!?」 「そんなこと言う恭也さん、大キライです。だから撃たせて下さいね?」  ちゃきっ  次々と突きつけられる三本のデバイス。  もはや恭也に逃げ場は無かった。  いーーやーーーーっっ!!??  ……その後、黒焦げのナニかを吊り下げて飛行する少女達の姿が各地で目撃されたが、きっときのせいだろう。  かくして、“ともだち”の野望は三人の少女達の手により未然に防がれた。  だが、エリア88は未だ恭也を盟主とする黒兎連合会の手中だったりする。  根本的な解決になってないぞ!? どーするトリプルブレイカーズっ!  ぴきーん!  恭也のステータスが更新された!  管理局のバイトくん  裏町の顔役(町内会会長)  ――から、  管理局のバイトくん  イーストエンドの総元締め(町内会連合総長)  ――へと変化した!