魔法少女リリカルなのは×とらいあんぐるハート3SS

IF編「恭也ではなく恭也の息子が主人公になるようです」




【1】


 姉的存在が、いつもの如く涙混じりに俺に言った。

「キョウくん、妹は可愛がらないとダメだよ?
 いじめちゃ絶対絶対だめ、たとえ妹のせいで被害を蒙っても、宇宙のように広い心で許してあげるべきなの」

「おば……ねーさん、またとーさんにいじめられたのか?」

 ……危ない危ない。危うく核地雷を踏むところだった。
 俺は内心、冷や汗をかく。
 「とーさんの妹」だから「姉的存在」、略して「ねーさん」だ(断じて「叔○さん」ではない!)。
 この人、子供にも容赦しない――ただし俺限定で――からなあ~

「にゃー 聞いてよ、キョウくん! お兄ちゃん、私のことをいじめるんだよ?
 『お前なんか“妹”じゃない“忌もうと”だ』だって!
 この世界でたった一人しかいない可愛い可愛い妹なのに、ひどいよねっ!?」

 幸い、とーさんに対する不満でいっぱいだったらしい。
 ねーさんは俺の言い直しに気付かず、言葉を続ける。

「ソウダネ」

 これに対し、俺もいつもの如く気の無い返事を返す。
 ……確かに、とーさんはよくねーさんをいぢめる。
 けど、ねーさんはその度に何倍にもして返しているのだから、お互い様じゃないだろうか?

 だが既に自己完結してしまっているねーさんには、それで十分だったらしい。
 感極まって俺を抱きしめる。

「さすがキョウくん! 同じ『恭』でもロクデナシのお兄ちゃんとは大違いだよっ!」

「……ねーさん、苦しい」

「キョウくんに妹ができたら、ちゃんと可愛がるんだよ? 約束なの!」

「わかった、わかったから……」

「お兄ちゃんの馬鹿ーーーー! 大っ嫌いっっ!!」

 ――そう言っていたねーさんが、暫くしてかーさん(その2)になった。
 なんでも、とーさんの子供ができたためらしい。

「そうか、『ケンカするほど仲がいい』ってこういう場合を言うのか」

 桜色と金色の光が激しく乱舞する夜空を見上げながら、俺はぽんと手を打った。




【2】


 ねーさんが、いつもの如く俺を抱きしめて言った。

「ええか、キョウちゃん。娘は可愛がらなきゃあかんで?
 まして、布団に潜りこんだくらいで叩き出すなんて、もっての他やっ!」

「……ねーさん、またか」

「ああっ! 妹から娘になった途端、お父さんは冷たくなった! 普通逆やろ逆っ!?」

 いつもの如くつっこむ俺を無視し、ねーさんは一人吼える。
 ……って、妹?

「……ねーさんに、兄さんなんていたっけ?」

 はて、と俺は首を捻る。ねーさんはかーさんと同い年で、子供の中ではぶっちぎりで最年長の筈なのだが……
 すると、ねーさんはあっさりと答えた。

「ああ、お父さんのことや」

「……は?」

「私が9歳の時まで、お父さんはお兄ちゃんだったんや」

「……ナニソレ」

「ま、子供にはちょう難しいかもしれんな」

 混乱気味の俺を見て、ねーさんは苦笑する。
 が、直ぐに真面目な表情に戻る。

「ええか? 好感度が上がると、女の子は妹に、妹は娘にクラスチェンジするんや」

「ええっ!?」

「更に好感度が上がると、娘は嫁になるっ!」

「うそっ!?」

「本当や。 ……ちなみに私、現在好感度MAXで入りきらない好感度をじゃぶじゃぶ捨ててる状態です。ああもったいない」

「じゃ、じゃあ、ねーさんも……」

 恐る恐る問いかける俺に、ねーさんは重々しく頷いた。

「そや、あと一つ簡単な条件……といいますか『イベント』クリアすると、嫁にクラスチェンジします」

 ――この会話の数ヵ月後、ねーさんはかーさん(その3)になった。
 なんでも、とーさんの子供ができたためらしい。

「ねーさんの言ったこと、本当だったんだ……」

 桜色・金色・白色の光が激しく乱舞する夜空を見上げながら、俺は大きく頷いた。




【3】


 かーさんが、いつもの如く俺に言った。

「あなたはお兄ちゃんなんだから、アリシアを大切にするのよ?」

 これに対し、俺はいつもの如く答える。

「わかった」

 すると、かーさんはやはりいつもの如く、本当に嬉しそうに笑った。

「うん、キョウはいい子ね。世界でたった二人きりの兄妹、仲が良くてお母さん嬉しいわ」

「……ななせとしずくは?」

 あと、キャロねーさんとヴィヴィオ。

「あ~ まあ、その、言葉のあやと言うか……そう! 私から生まれたのは『あなた達二人だけ』って意味で!」

 流石にバツが悪かったのか、かーさんは視線を逸らしながら言い繕う。

 はあ~~

 そして、大きく一つ溜息を吐いた後、ぽつりと呟いた。

「……私、恭也さんとは相思相愛で結ばれたのだけど、恋人の段階を飛び越して恋愛結婚しちゃったのよ」

「…………」

 知らなかった。“恋愛結婚”という言葉は、恋人同士の場合以外にも使うものなのか。

「もちろん今幸せだけど、なんかもったいなかったかな~と思わないでもないのよね。
 ――ほらほら、デート一つとっても、夫婦同士と恋人同士じゃ意味合いが違うでしょ?」

「そうなのか?」

 6歳児の俺には、その違いがよく分からない。
 が、かーさんは声を大にして断言した。

「そ・う・な・の! ……だから、ね? あなたとアリシアが仲良くしてるのを見ると、母としてだけじゃなくて一人の女としても満たされるの。
 なにせあなた達、幼い頃の私と恭也さんにそっくりなんですもの♪」

「……………………」

「だから、がんばってね♪」

「何を」

「早く成長して、私にもっと絵になる『兄妹仲睦ましい姿』を見せて♪♪」

「…………………………………………」

 ……かーさんは、俺とアリシアに一体何を期待しているのだろう?
 先程からしきりにまとわりついてくるアリシア(1歳半)の頭を撫でながら、俺は軽く嘆息した。








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