遥かに仰ぎ、麗しのSS「野生を取り戻せっ!」 【前編】  実に唐突だが、分校の教員は僅か20人足らずである。  故に同校に所属する全ての教員は、それぞれの専門教科の担当は勿論、他の役職も複数兼任しなければならない。  だが一言で“役職”と言っても、その内容は担任や生活指導、学年主任――態の良い雑用係――に工作員(?)等、実に様々だ。  我等が主人公、滝沢司も当然幾つかの役職を兼任している。  本職である歴史全般の教科担当教諭職の他に、クラス担任と理事長連絡係という二つの役職を兼任しているのだ。  ……ちなみに“理事長連絡係”とはつい最近出来たばかりの役職であり、読んで字の如く「教員が提出する書類を集めて理事長に届ける係」である。  表向きは「今までバラバラに提出していた書類をまとめて提出しましょう」という趣旨でできた役職なのだが、要は「司に理事長への説得役を押し付けよう」という話、書類提出時に提出者から事情を聞き、それを理事長に伝えて了解を得なければならないという実に損な役回りだった。  まあ司はあくまで理事長の立場に立って双方の妥協点を探るのだが、それでも今までより遙かにスムーズに物事が進む為、最近では教員だけでなく分校全職員からの書類も受け付ける様になっていた。  ……しかし、これはもう一教員の仕事では無いのではないだろうか? 「では今回の書類の件に関しては、そういった方向で宜しいですね、理事長?」 「ああ、構わない」  司の最終確認を、みやびは実に鷹揚に応じた。  週に一度、司はこうして理事長への書類を提出する。  司はあくまで教員が本職であるため、通常の特に問題の無い書類は事務の方で処理するのだが、理事長がへそを曲げそうな、或いは怒りそうな書類は全て司に回される。  そういった書類をその一週間の間に処理し、こうして週末に最終的な調整と確認を行う、という訳だ。(ここから後は単なる事務手続きであるため、事務員の仕事である) 「……ところで司? これから夕食なのだが、お前も食べるか?」  仕事が終わった後、みやびはいつもの様に司を食事に誘う。  ここ最近、みやびは何故かこうして、よく司に食事を振舞ってくれる。  言葉だけなら「別に食べようが食べまいがどうでもいい」ともとれる素っ気の無いものだが、その上目使いの表情と口調から考えて、どちらかと言えば「一緒に食べよう」というおねだりの類だろう。  ……こんな風におねだりされて、司に断ることが出来るだろうか? いや、できない、できる筈が無いっ!  という訳で、みやびの願いとついでに自分の欲望――みやびの所で出される食事はとても美味いのだ――を叶えるべく、司は最敬礼で応じた。   「御相伴に預からせて頂きます」 「うむっ! 素直でよろしい!」  司の態度に、みやびは実に満足そうに頷いた。 「で、今日の夕食は何ですか?」  司は期待満々でリーダに尋ねる。  そんな司に、彼女は微笑みながら答えた。 「お鮨ですよ」 「おおっ! そいつは豪勢なっ!」 (……そういえば、最後に鮨喰ったの何時だろう?)  司はふと考える。  ここ凰華女学院分校の食堂では、実に多彩な高級料理が楽しめるが、何故か洋食中心であり和食は少ない。  ましてや生の刺身など、まず出ないのだ。(こんなに海岸に近いのに、実に勿体無いことである!)  故に、司は和食に飢えていた。  そんな様子を見て、リーダはくすりと笑う。 「では司様、最初は“おまかせ”、その後に“お好み”でよろしいでしょうか?」 「へ? ……もしかして、鮨職人が来てるんですか!?」 「はい。“栄鮨”のご主人が」 「げっ! わざわざ“栄鮨”の主人が握りに来てるのですかっ!?」  余りにもさらっとリーダさんは言うが、とんでもなく凄い事だぞ、それっ!?  “栄鮨”は江戸時代から続く超高級寿司店で、老舗中の老舗、名店中の名店である。  特に当代主人は、その技術の素晴しさから人間国宝に叙された程であり、彼が握る鮨目当てに全国……いや世界中から客が“栄鮨”訪れる程だ。  ……が、彼の握った鮨を味わえるのはその極一部に過ぎない。  正に、選ばれた者のみが味わうことを許される至高の鮨なのだ。  それが向こうから出向くとは……  風祭の力は、本当に恐ろしい。   「はい。でも、ヘリですから直ぐですよ?」 「…………」  ……リーダさん。正直、その思考にはついていけません。  この学園のバブリーさにも大分慣れたと思っていた司ではあるが、どうやらまだまだの様だった。  ……まあ慣れたら慣れたで、後々大変だろうが。  隣室で握られた鮨を、メイド達が理事長室へと運んで来る。  それを給仕役のリーダさんが受け取り、みやびと司の前に運ぶ。 「お待たせいたしました」  食べるのはみやびと司の二人だけだ。  いつもそうなのだが、リーダは決して司達と――いや、みやびと一緒に食事をとることはしない。  彼女は決して、使用人としての立場を崩さないのだ。  故に司がいる時以外、みやびはいつも一人で食事をとっていた。(まあ会食とかでみやびも他人と食事をとる機会はあるが、これは少々意味が違うだろう)  司としてはこの状況を何とかしたいと思うのだが、これがなかなか上手くいかない。  何故なら彼女にとり、それは神聖な義務であり誇りでもあるのだから。 「お嬢様、どうぞ」 「うむ」  鮨は出来た順に運ばれてくる。  最初に来たのは、みやびの分だった。  が、みやびは箸を取ろうとはしない。恐らく、司のことを待っていてくれているのだろう。  ……そんなみやびを見ていると、司の心にむくむくと悪戯心が湧き上がる。 「理事長、折角の鮨が乾いてしまいます。勿体無いですよ?」 「あっ!?」  そう言うが早いか、司はみやびの桶から鮨を一つ摘み出し、口の中へと放り込んだ。  その一部始終を、みやびは呆気にとられて見守る。  ……やがて、深い溜息と共にお決まりの台詞が吐き出された。 「……お前なあ、もう少し我慢できないのか? 親しき仲にも礼儀あり、と言ってだなあ……」  『親しき仲にも礼儀あり』。  みやびが司に対して説教をする際、良く出る言葉だ。無論、対司専用である。  ……しかし、彼女は気付いているだろうか?  その言葉は、自分と司の仲を認めている証拠だ、ということを。(リーダなど、そんなみやびを嬉しそうに見守っている)  が、我等が司にその様な言葉の機微はわからない。みやびも、である。  故に、それで仲が発展して……などということは起きない。  精々、仲の良い兄妹がじゃれ合うレベルに過ぎないのだ。 「いいじゃあないですか、代わりに僕の分が来たらお返ししますから」 「そういう問題じゃあないんだ…… 本当にお前という奴は……」  みやびは諦めたのか、次々と鮨をくすねていく司を黙認する。  別に本気で腹を立てているわけでも呆れている訳でも無いので、これ以上注意する気はない。  余程気を許せる相手でも無い限り、司がこんな無作法な真似はしないことを知っているからだ。  そして司がそれを自分に対して行うということは、自分はそれだけ司に心を許されている、ということになる。  そう考えると、みやびは不思議と悪い気がしなかった。  そんなみやびの感傷を他所に、司は鮨を頬張る。(どうやら、さっきの1個で食欲に火がついたらしい) 「いや、しかし美味いですよこれは!」  こんな鮨、今まで食べたことが無い、と司は感嘆する。(実際、もしこれが本当の鮨だとしたら、今まで司が食べていたものは鮨以外のナニかだろう) 「そうか〜♪ じゃあ存分に食べろ〜♪」  何故だか知らないが、その言葉を聞いたみやびは益々機嫌が良くなった。  そして気前良く、自分の桶を司の方へ押し出す。  実の所、みやびは和食があまり好きではなかった。  まして生の刺身など興味も無い。(何が悲しくて、魚を生のまま食べねばならんのだ!?)  食堂に和食が無いのも、まあそんな理由からだ。  自分が好きなものは皆も好き、自分が嫌いなものは皆も嫌い、という実にジャィアニズム的な発想である。  ……にも関わらず、みやびは夕食に鮨を選んだ。  不思議、と言う他ないだろう。 「……理事長は食べないのですか?」  ふと、みやびが全く箸を付けないのに気付き、司が心配そうに尋ねた。  が、自分に向けられるその言葉と表情に内心嬉しく思いつつも、彼女は澄まして答えた。 「馬鹿者。あたしはお前と違うから、次が来るまで待てる」 「……そりゃあご立派なことで」 「当たり前だ」 「じゃあこうしましょう。二人で一つの桶を食べるのです。それならば、一緒に食べられるじゃあないですか」 「食べる? ……二人で一つの桶を?」  みやびは首を捻った。  彼女からは絶対出てこない発想である。  そもそも風祭の家では、複数の人間で同じ器に箸を入れるなどという真似は決してしない。  まあパーティーの際には大皿から小皿に料理を盛り取るが、これは少々意味合いが異なるだろう。第一、その場合はメイドたちが盛り分ける。  以前司が鍋料理とやらを作って振舞ってくれた際も、大鍋に盛られてそれを皆でつつくと知り、大層驚いたものだ。(風祭では、鍋料理も各人毎に小鍋で作られる)  ……しかし、流石に二人で一つの桶を食べるのは如何なものだろうか?  丼物を“犬の餌”と揶揄する名門風祭家に生まれたみやびにとり、それはかなり躊躇される行為だ。  彼女の頭の中で、様々な考えがぐるぐると駆け巡る。  やはり鍋の時と同様に、互いに親睦を深める為に行う料理作法なのだろうか?  それとも、親しい人間同士が親愛の意味をこめて行う愛情行為なのだろうか?  そう考えると、悪くないように思える。  何れにせよ折角の司の申し出、みやびを“親しい人間”と認めてくれた上での誘いである。無下には出来ない。  みやびは恐る恐る、桶の中に箸を入れた。 「うんうん、やはり食事は一緒にとらないとなあ」 「……お前が待っていれば、こんなややこしい真似をしないで済んだんだぞ?」  満足気に頷く司を、みやびがジト目で突っ込む。 「いいじゃあないですか、理事長。僕等は他人じゃあ無いんだし」 「へっ!?」  その爆弾発言に、みやびは思わず箸から鮨を落とした。 (他人じゃないって、もしかして、もしかして……司は…………)  心臓はバクバク、顔も真っ赤にして、みやびは司の次の言葉を待った。  ……何故か、目まで潤んでいる。 「何たって、僕と理事長は何度も拳で語り合った強敵(とも)ですからねっ!」 「はあっ!?」  思いがけない言葉に、みやびは目をまんまるに見開いた。 「あれっ? 理事長は知りません? “強敵”と書いて“とも”と読むのですよ?」 「知るかっ!?」  漢と漢の熱い魂の交流ですよ?とのたまう司に、みやびはふるふると震えながら叫ぶ。 「じゃあ理事長に貸してあげますよ“北東の拳”。僕のバイブルなんです」 「いらんわっ!!」  みやびは興奮して机をバンバン叩く。  心臓はバクバク、顔も真っ赤だ。 ……目は潤んでいなかったが。  そんなみやびを見て、司は首を捻る。 「……何怒ってるんですか、理事長?」 「あたしだってわかんないわよっ!? あーもー何だかとってもちくしょうっ!!」  その言葉と共に、みやびは目に涙を一杯浮かべながら飛び掛かった。 「理不尽なっ!?」  ……こうして、いつものケンカという名のスキンシップが始まった。  …………  …………  …………  30分後―― 「お二人共、お食事を再開してもよろしいでしょうか?」  精魂尽き果てて突っ伏す二人に、リーダの容赦ない言葉がかけられた。  笑顔だが迫力があり、とっても怖い。  ……要は、「お残しは許しませんよ?」と言っているのだ。 「も、もちろんですよっ! ねえ、理事長!」 「あっ、ああ! 当然だ!」  その言葉に、二人は慌てて席に戻る。(こういう時のリーダは怖いのだ)  そして、食事が再開された。  ……ちなみにリーダさん、食事中のケンカはスルーですか? 「馬に蹴られたくないですから」  ……ご尤も。  食事中、ふとみやびは気になったことを司に尋ねた。 「……お前は、いつもこんな食べ方をしているのか?」  二人で一つの桶をつつくのか、ということだろう。 「まさかあ。当然、相手を見ますよ」  家族や余程親しい友人くらいかなあ、と司。 「そ、そうか! ……じゃあ、相沢や仁礼とも?」  みやびは一瞬喜ぶが、あの二人……特に司と親しい二人組のことが頭に過ぎり、思わず睨みながら尋ねる。 「あ〜、あいつらはちょっと、流石に問題が……」  まあ個人的には構わないが、色々ややこしいことになりそうだ。  栖香の場合、「はしたないです!」と説教されそうだし、  美綺の場合は調子に乗り、「あ〜ん♪」なんてされかねない。  何れにせよ、折角の食事に精神的に疲れる行為はやりたくなかった。 「では、あたしが初めてかっ!」 「まあ、ここではそうなりますかねえ……」 「『ここでは』っ!? お前! 分校の外で、他の女とこんなことをやっているのかっっ!?」  みやびは興奮の余り、再び司に掴みかかる。  慌てた司は、必死で否定した。(もう体力の限界である。これ以上戦えば明日は全身筋肉痛、シップ臭で教え子達からブーイングものだ) 「まっ、まさか! 男の友人とだけですよ! 流石に女性とはっ!?」 「ならよろしい♪」  いつもなら「じゃあ、あたしは女じゃない、ということかっ!?」と激怒するところだが、今日は幸せ回路が働いているため、そこでみやびは矛を収める。  ぶっちゃけ「栖香と美綺にもしていない」という事実が、「自分は特別」と脳内変換されているのだ。  要は気持ちの持ちよう、ということだろう。 ……女心とは、実に複雑だ。  そんなこんなで、食事は賑やかながらも比較的平穏――あくまでこの二人の基準――に進んでいく。  司は黙々と鮨を食べ、そんな様子をみやびは御機嫌で眺めている。  一緒に食事をとる様になって知ったのだが、司は中々の健啖家だ。  食べるぺースも中々早い。男と女、という差を考えてもかなり早い方だろう。  ……要するに、早喰い大喰らい、の類である。  にもかかわらず、その食べ方は不思議と人に不快感を与えない。  まるで、そういう作法でもあるのか、とでも思える様な綺麗で系統だった食べ方である。  みやびをしてそう思わせるのだから、ひいきを差し引いても中々のものだろう。  と、司の箸が急に止まった。  そして、不思議そうに首を捻る。 「司、どうした?」  みやびは心配になり、尋ねた。 「?」  幾つか食べて、司はふと気付いた。気付いてしまった。  美味い、凄く美味い。 ……けど、何か違うような気がする。  そう、何か一味足りないのだ。  もし、分校での食生活の大幅向上により、舌の経験値が大幅向上していなければ、気にもならなかっただろう、  もし、こうして幾つも食べていなければわからなかっただろう、  が、気付いてしまった。 「司、どうした?」  みやびの心配そうな声が聞こえる。  だから、司は思い切って尋ねた。 「理事長、もしかして…… これ、さびぬきですか?」 「うっ、うるさいっ! 別にいいだろう!?」  図星をつかれ、みやびはうろたえる。  ……実は今まで運ばれた鮨は、全て“さびぬき”だったのだ。 「いやまあ、そうなんですけどね」  まあ美味いからいいか、と考え直す司。  だがみやびにとり、その指摘は中々のダメージだった様だ。  顔を真っ赤にして反論をする。 「おっお前っ! まさか、『さびぬきなんてお子様だなあ』なんて思ってるんじゃあないだろうなっ!?  違うぞ! 断じて違うっ!! ああいう刺激物を食べると、繊細な味覚が破壊されるんだ! 脳細胞が破壊されるんだっ!!」  だからわざと食べないんだ、と強硬に主張するみやび。 「いや…… だから別に気にしてませんよ…… 僕だって、未だに苦手なものありますし……」 「嘘じゃない! その証拠を今から見せてやるっ! リーダ! わさび特盛で御願いっ!!」 「……宜しいのですか?」  リーダは眉を顰めて否定的に確認する。  が、今日のみやびは強硬だった。 「あたしの誇りがかかっているのよっ!?」  みやびは、司に子ども扱いをされるのが我慢出来なかったのだ。  だから、運ばれたわさびを鮨に塗りたくり、それを一気に口に入れた。 「まてみやびっ! それは危険だ!!」  危険なブツを口に放り込もうとするを見て、司は慌てて止めようとする。  ……が、遅かった。 「――――!? 〜〜〜〜!!!!!!」  辛さのあまり、みやびは理事長室中を転げ回る。  ごろごろ  ごろごろ  ごろごろ……ごつんっ!  そして途中で柱に頭を思いっきりぶつけ、停止した。正に踏んだり蹴ったりである。 「! お嬢様!」 「みやびっ!?」  司は慌ててみやびを抱き起こす。  余程慌てていたせいか、呼び捨てである。 「どうですか、司様?」 「大きなたんこぶが……」  目を回すみやびの頭には、実に立派なたんこぶが出来ていた。 「……だから申し上げましたのに」 「しかし…… 負けず嫌いというか何と言うか……」  こうなること位わかるだろうに、と呆れた様に言う司。 「そう仰らないで下さい。良い所を司様にお見せしようと、お嬢様も必死だったのですから」 「良い所、ねえ……」  自爆し、気絶したみやびを見て苦笑する。  本当に、努力が空回りする子なのだ。 「司様…… 実はお嬢様、和食はあまりお好きではないのです」  ですから食堂にも、殆ど和食が御座いませんでしょう、とリーダ。 「へ? じゃあなんで……」 「……そういえば司様? この間談話室のTVでお鮨の特集をじっと眺めて、溜息吐いてらしたそうですね?」  見られていたようだ…… 「じゃあ、もしかして……」 「さあ? 流石にそれ以上はお答えしかねます。  ただ、お嬢様が『別に好きでも無い物をわざわざ都内から取り寄せた』ということだけは、お心にお留め下さいませ」 「…………」  司は黙って目を回すみやびを眺め続ける。  ……本当、不器用な子だ。 「ありがとう、みやび」  司は、やさしくみやびの頭を撫でた。 「……先生、理事長とお楽しみでしたか?」 「うおっ!?」  理事長室を失礼した途端に背後から声をかけられ、司は思わず驚きの声を上げる。 「……(ぺこり)」 「……なんだ、小曽川か脅かすなよ」  何時の間にか、傍らにハムスターを思わせる小柄な少女が立っていた。  彼女は気配も無く現れるので、実に心臓に悪い。 「何か勘違いしている様だが…… みや……理事長に御馳走になっだんだよ」 「……理事長をご馳走に?」 「違うっ!」  と、彼女は急に司に近づき、何やら盛んに鼻をクンクンさせる。  ……そして、にやりと笑って指摘した。 「……先生、理事長の匂いが上着に染み付いてる」 「げっ!」  慌てて司は上着の匂いを嗅ぐ。  ……確かに、みやびの匂いがした。  どうやら取っ組み合いや抱き抱えたことで、匂いが移ったらしい。 「……(ぺこり)」  が、彼女はそれ以上追求せず、もう一度お辞儀をして去っていく。 「心臓に悪いなあ……」  そんな彼女を、司は呆然と見送った。 「あれ? センセ、何で上着脱いでるの?」  談話室を通りかかると美綺と栖香、そして奏といういつもの三人組がいた。 「いや、ちょっと暑くてな…… 時に、仁礼はどうしたんだ?」  栖香は呆然と立ち尽くしている。  その視線は、自分の右手――何故か“じゃんけんのちょき”を形作っている――に注がれていた。  そしてやたら嬉しそうな美綺に、そんな二人をオロオロと見比べる奏……  まあなんというか、三者三様だ。 「ああ、勝負の世界の厳しさを思い知ったんだよ」  と美綺は何故か拳を握り、“じゃんけんのグー”を形作る。 「?」  今ひとつよくわからないが、どうやら栖香は美綺とじゃんけんをして負けたらしい。  が、如何に負けず嫌いの栖香とはいえ、幾らなんでもそれだけであそこまでの反応は示さないだろう。  ……何か、重要なことでも賭けていたのだろうか? 「それよりセンセっ! 今度の外出日、一緒にお鮨食べに行こうよっ!」 「急に、どうしたんだ?」 「ん〜、急に食べたくなっちゃってね〜 センセも食べたいでしょ?」  ここじゃあ食べられないからね、と美綺。 「まあ構わんが……」 「やった! 久し振りだよね〜 センセもそうでしょ?」  思わずガッツポーズをとる美綺。  が、司の次の言葉に、思わず唖然としてしまう。 「つい昨日までは、な? けど鮨なら今さっき、理事長からご馳走になったぞ」 「え、みやびーがっ!? ……くっ、職権乱用だよっ!」  折角の“計画”を潰されて、美綺は思わず拳を握り締めた。  実は、美綺(と栖香)もみやびと同様に、司に鮨を食べさせてあげようと考えていたのだ。  で、「誰が一緒に行くかを巡り、じゃんけんで決着をつけた」という訳である。  ……しかし一歩遅かった。これでは折角の計画も効果半減どころの騒ぎでは無い。  故に美綺は、特権をフルに利用してフライングしたみやびを思わず罵ったのだ。  が、朴念仁な司にそんな事情を汲み取れる筈も無い。  司は、美綺の反応をただ「自分達だけ鮨を食べてずるい」と考えているのだろう、と実に安直に考えて美綺を諭す。 「……お前、そんなに鮨が食べたかったのか? でもな、あれで理事長と言う仕事は結構大変なんだ。それ位、大目に見てやれよ」 「センセって、みやびーに甘いよね」  しかし司の言葉は逆効果だった。  美綺から見て、最近の司はみやびに構ってばっかりいる。  もう少し位、自分達に時間を割いてくれても罰は当たらないと思う。  無論、みやびが飛び抜けて司を独占している、という訳では無い。実際には美綺と栖香の方が多い位だ。  が、彼女達から言わせれば、自分達は司と過ごす時間の大半を複数で過ごしているため、二人きっりになっている時間はみやびと比べあまりに少ない、という不満があった。  ……まあそれを言うならばみやびとて大概リーダと一緒なのだが、そんな理由は恋する乙女には通用しないものなのだ。 「そうか? お前達にも結構甘いと思うが……」  司は美綺の言い分に首を捻る。  流石にみやびは、美綺や栖香の様に夜間部屋に押しかける様な真似はしない。  外出日の相手だって美綺か栖香のどちらかだ。  そんな司を、美綺はジト目で睨みつける。 「……センセは最近、随分みやびーと一緒に食事するよね……」 「まあ仕事上、よく会うからな」  けど一緒にとるのは仕事の日だけであり、それ以外は昼夜はこの三人、朝は栖香とが大半だ。 「何か、いつも凄く高いものばかり御馳走されてるよね……」 「まあそうだかもしれんな。しかし、さすが理事長はいいもの食べてるよなあ」  ここの食堂で出される食事も美味いが、みやびの所の食事はその更に上を行っている。  ああいうものが食べられるなら、また是非御相伴に預かりたいものだ、と呟く司を、美綺は実に冷やかに見る。  そして、言った。 「……センセのヒモ」 「ぐぅあっ!」  美綺にとっては、その場限りの思いつきに過ぎない悪口だったかもしれない。  が、その言葉は司にとり、まさに痛恨の一撃だった。  自分でも何となく感じていた漠然とした不安を、一言で言い表されてしまったからだ。  ……自覚、あったんですね。  そんな司の様子を見て、美綺は溜息を吐いた。 「センセ、『タダより高いものは無い』って言葉、知ってる?」  みやびに借りを作り過ぎ、ということだろう。 「むむう……」  その言葉に、思わず考え込んでしまう。  ……考えてみれば、僕は近頃随分みやびに御馳走になってるじゃあないか!  気分は、すっかり飼い犬である。  ――司よっ! お前は、身も心も堕落してしまったのかっ!?  どこからか、そんな声が聞こえた様な気がした。(*気のせいです)  ――飼い慣らされ、野生を、牙を失ってしまったのかっ!?(*始めから持っていません)  ふと空を見ると、大空に虎頭の男が、マントを翻して浮かんでいた。  司の心の師、タイガー○スク(漫画版)である。(*絶対気のせいです。第一、ここは部屋の中です) 「あっ、貴方はっ!?」  ――司よっ! 虎だっ! お前は虎になるのだっ!!  その言葉が胸を打つ。 「……確かに、堕落してしまっていたかもしれない」 「うんうん、そうだよ! だから、みやびーにもっと毅然とした態度を……」  我が意を得たり、と頷く美綺。  が、司は聞いちゃあいなかった。(まあそれは美綺も同様なので、お互い様ではあるが) (何としても、赴任前のワイルドな僕に戻らねばっ!)  こうしてすっかりその気になった司は、『野生を取り戻す』為の特訓を開始することとなった。  ……実にノリ易い男である。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【後編】  ――と言う訳で、失われた野生を取り戻すべく、司は早速行動を開始した。  ジャージ姿に大きなリュックを背負い、やる気満々である。 「わう! わうわうっ!」  突然、ハッハッハッハッと何かが司の足元にじゃれついてきた。  見ると、中々に愛らしい仔犬だった。 「おおっ! ゴンザレスじゃないか!」  ゴンザレス(本名ダンテ)は、分校内を縄張りとする半野良の仔犬だ。  中々人懐っこい上に愛嬌もあるため、分校のマスコット的な存在となっている。 「きゅう〜!」  司に遊んで欲しいのか、ダンテは盛んに尻尾を振る。 「なら、お前も一緒に野生を取り戻しに行くか?」 「ワン!」  『ダンテが仲間に加わった!』 「あっ、先生〜! 何をやってるんですか〜?」 「わ〜、また何か面白いこと始めたんですね〜?」 「内緒にしますから、混ぜて下さいよ〜」  山に入ろうとした司を生徒達が見つけ、たちまち取り囲む。  司がこの分校に来て、早一年。  彼の“奇行”は、既に分校中に知れ渡っている。  ……その奇行がとても面白く、楽しいものである、という認識と共に。  このため、司の“奇行”は一種のレクリエーションと化していたのだ。 「ふっ、少女達よ」  が、司はダンテを抱き上げ、首を振った。  いつもの司ならば、ホイホイと仲間に入れていただろう。  が、今回の司は一味違う。何故ならタイガー司だから。 「残念ながら、今回行うのは漢のみに許される神聖な儀式だ。だから僕と……」 「ワン!」 「このゴンザレスしか、参加することは許されない」  男の中の男である“漢”しか参加することが許されないのだ、と力説する司。 「あ〜、今回はそういうノリなんですね〜」 「残念だけど、しょうがないね〜」 「次は混ぜてくださいよ〜」  司の言葉を聞くと、残念そうながらも生徒達はあっさりと退いた。  流石御嬢様だけあり、皆実に聞き分けが良い。(無論、例外は存在する。悲しいかな、全員司の関係者だ) 「悪いなあ。次は誘うよ」 「きっとですよ〜」  生徒達は思い思いに去っていった。  それを見送った後、司はダンテの頭をポンと叩く。 「よしっ、行くぞ! ゴンザレス!」 「ワン!」  一人と一匹の特訓が始まった。 ――――分校敷地内、某山。  白い〜○ットの〜ジャ〜ングルに〜〜♪  殿子がいつもの様に山中を歩いていると、何やら歌が聞こえてきた。  それ程大きくはなかったが、この静かに山中では実に良く聞こえる。 「?」  不思議に思った殿子は、その音のする方に自然と足をむける。  ……まあ、心当たりは一つしかなかったが。  ゆけ、ゆけ、タイガー(タイガー)、タイガー「ツカサ!」「ワン!」♪  ……予想通り、そこには司がいた。如何にも楽しそうに、ダンテと遊んでいる。(音の正体は、小岩の上に置かれたラジカセだ) 「司、何してるの?」  司の背後には、テントまで張ってある。  ダンテと遊んでいるのはわかるが、それにしては大掛かり過ぎた。 「ああ殿子か、今特訓をやっているんだ」 「特訓? ダンテの?」 「いや、僕の」 「……司の?」  殿子は首をかしげる。  先程からボールを投げて、それをダンテに取ってこさせているだけだ。  ……どう考えてもダンテしか鍛えられていない。 「そうだ。ここは地獄の修行場“虎の穴”、そして僕等はそこに訪れた挑戦者」 「“特訓”“地獄の修行場”“挑戦者”……」  一瞬、「そういう遊びなのかな」とも考えたが、司の目を見て本気だと気付き、ますます殿子は首をかしげた。  まず司の言う“地獄の修行場”は、キャンプには格好の実に景色の良い場所だった。  “特訓”も、どう見てもダンテと遊んでいる様にしか見えない。  ……だから、殿子は正直に言った。 「司、遊んでいる様にしか見えない」 「何を言う! これ、結構な重労働なんだぞ!?」  既に一時間が経過しており、体力的に結構辛い。 「司、体力無さ過ぎ」 「くっ、そんなこと無いぞ! 僕はまだまだやれる!  さあっ、ゴンザレス! どこからでもかかってこい!」  殿子の指摘に発奮した司は、見てろとばかりに「ヘイ、カモン」とダンテを挑発する。 「きゅう?」  ……が、言っている意味が分からないのか、ダンテは軽く小首を傾げるだけだ。 「さあ、来い!」 「! わう、わうわう!」  司が両手を広げると、ようやく理解(多分)したダンテが司に飛び掛る。 「ははは! いくぞ、ゴンザレス!」 「きゅう〜!」  一人と一匹はじゃれ合う様に縺れ合う。  ……司にとってはあくまで特訓であったが、ダンテにとっては完全な遊びでしかなかった。 「はあ……」  そんな一人と一匹のすれ違いを見て、殿子は大きな溜息を一つ吐いた。  …………  …………  ………… 「ちょ、ちょっと待ってくれゴンザレス、ストップ、ストップ」  30分後も経つと、体力ゲージが黄信号を発しだしたため、司は慌ててダンテを止める。   「きゅう〜」  早くも降参の司に、ダンテが不満の鳴き声を漏らした。  ダンテにとってはまだまだこれからなのだ。ここで終わられては堪らない。 「わうわう!」  しっかりしろ、とでも言うように吼える。 「司、本当に体力無い」  殿子も呆れ顔だ。  ……もしかしたら、自分よりも体力が無いのではないだろうか? 「仕方が無いだろ? 僕は頭脳労働者なんだから」 「でも、みやびと戦う時はもっと頑張ってるよ?」 「……命がかかってるからな」  どこか遠い目をして司は答える。  と言うか、みやびは自分が満足するまで攻撃を止めないため、嫌でも戦い続けなければならないのだ。 「命を賭けたく無いのなら、みやびを怒らせなければ良いのに」 「そうは言うがな、理事長はニトロ並の瞬間発火装置だ。だから何かあると、直ぐに襲い掛かってくるんだよ」 「……それは、司が余計なことを言うからだよ」 「そうかな?」 「そう」 「う〜む、自覚無いなあ……あ、有難う」  会話しながらも殿子の手はテキパキと動き、出来たコーヒーを司に渡す。 「で、司は何の特訓をしていたの? またみやびと対戦するための特訓?」 「ああ、野生を取り戻すための特訓だよ」 「ダンテを?」 「違う、ダンテはあくまで助手。主役は僕だ」 「野生? 司が?」  赴任してから今までの司を思い出す。  赴任早々迷子になった司。  敷地内を探検中に何度も道に迷い、その度にシクシクと泣いていた司。  溺れる司、流されていく司――  ……浮かぶ光景は、どれも野生には程遠かった。 「……本気?」  むしろ「正気?」と問うべきだろう。  が、司は大真面目に頷いた。 「もちろん! 僕は何時だって本気さ!」 「はあ……」  殿子は大きな溜息を吐いた。(これは司と仲良くなってから出来た癖で、何故か司との会話中によく起こる不思議な癖だ)  そうだった。司は何時だって本気だ。けど――  殿子の脳裏に、シクシクと泣いている司の姿が未来視の如く過ぎさった。  ……いや、別に未来視でなくても、今までの経験から充分予測できることだったが。  正直、見てて放っておけない。このまま放って置いたら、多分、絶対夢見が悪くなりそうだ。  だから殿子は迷わず言った。 「じゃあ、私も手伝う」  殿子から見て、司は「世話の焼ける兄」の様な存在だ。  自分のことを理解してくれるが、あまり頼りにはならない、けど誠実な……  もし自分に兄がいたら、こんな感じだったら良いな――そう思えるほどの。  偉くなくったって良い、情けなくても別に構わないのだ。  ただ誠実で、他人を解ろうとする人であれば、それだけで殿子には充分だった。  ……まあ実際は、兄というより「手のかかる大きな弟」の様にしか思えなかったが。  だから、殿子にとって司を助けるのは当然の選択なのだ。 「駄目だ! この修行は女人禁制、漢のみの特訓なんだ!」  が、どうやら余程、今回の決意は固いらしい。  冒頭で断った生徒達同様、司は殿子に対しても頑として譲ろうとはしない。 「男のみ?」  殿子はその言葉を聞いて首をかしげる。 「男じゃなくて“漢”、男の中の男のことさ」 「……でも司、ダンテは女の子だよ?」 「な、なんだってーーっ!?」  司は驚き、ダンテを見た。  そしてダンテを抱き上げ、まじまじと見る。 「……無い」 「司、下品」 「裏切ったな! 僕の気持ちを裏切ったな! あの女と同じに、僕を裏切ったんだ!」  司はダンテを指差し、弾劾する。  ……どうやらこのSS中では、例のトラウマもギャグのネタに出来るほど回復しているらしい。 「きゅう〜?」  ぺろっ。  そんな司をダンテは不思議そうに眺めていたが、何を考えたのか突きつけられた指を一舐め。  ……それだけで、司の顔がふにゃっとなる。 「あー、可愛いなあ! お前は魔性の女だ!!」 「きゅうー!」 「……はあ」  司がダンテを抱き抱えてゴロゴロ転がるのを見て、殿子は何度目になるかわからない溜息を吐いた。  ……本当に世話の焼ける“兄”だ。いや、兄と言うよりも弟と言った方が良いかもしれない。  が、放ってはおけなかった。  この「まるで弟のような、世話の焼ける兄」の面倒を見るのは、“妹”として当然のことなのだから。  無論、殿子はこの情けない面だけが司の全て、などとは思っていない。  人には様々な面がある。きっと司にも、自分には見せない別の面があるのだろう。  ……でなければ、みやびや仁礼が、ましてや相沢があそこまで無邪気に慕う筈が無かった。  が、殿子は別にそれを知りたいとは思わない。  司は自分の「世話の焼ける兄」、それで充分だ。それ以上は何も望まない。  それだけでも、自分には充分過ぎる程なのだから。  でも……  できれば……  できることならば……  ダンテと二人(?)の世界に入るのだけは、止めて欲しかった。  ……せめて、よそさまの前では。  完全にダンテと同レベルでじゃれ合う司を見て、殿子は心の底からそう願った。  それから数日後―― 「えー、では授業終了前の10分間を使って小テストを行います。  あ、小テストは授業終了後、代表者が集めて僕の机の上に置いておいて下さい。ではっ!!」  言うが早いか、司は教室を後にした。 「あっ、また!?」 「先生、ちゃんと最後までやって下さい!」  一部の生徒からブーイングが出るが、気にしない。  放課後捕まらない様、距離を稼がねばならないからだ。 「センセ、授業放棄だっ!」 「お前もなー!」  司の行く手を美綺が塞ぐ。  わざわざ授業をサボってまでして、司を捕まえようと待ち構えていたのだろう。実にご苦労なことだ。 「罰だ、あとで授業内容をレポートに十枚以上書いて持ってこい! もちろん手書きだぞ!」 「センセ横暴! 誰のせいでサボったと思ってるんだあ!?」 「はて?」 「そこで首捻るなっ!」  美綺は叫びつつも、今回のセンセは一味違う、と思わざるをえなかった。  何故だか知らないが、今回の司はマジである。  ……いや、何時も手を抜いている、と言う訳では無い。何時だって司は本気の人だ。  が、今回は本気の本気、本気にスーパーチャージャーがかかっているような状態だった。 (う…… ちょっとカッコイイかも)  ……他人が聞いたら首を捻りそうな評価ではあるが、美綺には格好良く見えるのだから仕方が無い。  所詮は惚れたものの負け、痘痕も笑窪ということなのだ。 「授業をサボるなんて悪い子だ! 先生は悲しいぞ!」 「ええい、サボりサボり言うなっ! この腕章が目に入らぬかあ!」 「げっ! それは“みやび印の腕章”!?」  “みやび印の腕章”とは、理事長公認で授業を欠席することを許された者のみが付けることを許される腕章である。  通常は……というか常識から考えて、公欠とか病欠の際に使われるものなのだが…… 「理事長! 職権乱用ですよ!」 「センセが言うな!」  今頃ぶつくさ文句を言いながらも、律儀に小テストを受けているであろうみやびを思わず罵ると、美綺がすかさず突っ込みを入れた。  ……いや、ごもっとも。  しかしどうりで今回、みやびと栖香が大人しく引き下がったわけである。  おそらく油断を誘う為だったのだろうが、まさか三人が手を組むとは思わなかった。 「くっ! 教室に理事長と仁礼、外に相沢という二段構えの作戦か! ……ん?」  ならば、同じく欠席した上原も…… 「先生、お願いですから止まって下さいっ!」 「やはり!」 「かなっぺ、ナイスタイミング!」 「うう、なんでなんで私まで……」  半ベソをかきながらも、奏は両手を広げて立ち塞がる。  本当、友達思いの良い子である。  ……まあ、振り回されてる、とも言えるが。 「なら!」 「え?」  司は奏の直前で急に曲がり、近くの部屋へと飛び込んだ。 「よっし! これでセンセは袋の鼠! かなっぺ、ゴー!」 「絶対絶対、無理! 無理だよ!」  美綺がけしかけるも、奏は断固拒否だ。  ……何故ならば、司が逃げ込んだのは“男子トイレ”だからだ。 「もー、しょうがないなあ……って、かなっぺ何を!?」 「駄目、駄目だよみさきち! 女の子として、それだけはっ!」  男子トイレに突入しようとする美綺を、奏が羽交い絞めする。  何としても止めようと、必死だ。 「いいじゃん、誰も見てないんだからさあ!」 「そういう問題じゃない、問題じゃないよ!」 「上原、さんきゅ!」  そんなことをやってる間に、司が隙を見て逃げ出した。 「あ――っ!!」 「はっ、はっ、はっ、また会おう明智君っ!」 「センセの薄情者――!」 「最近、お前はご機嫌ね?」  梓乃はダンテの頭を優しく撫でてやる。  最近、ダンテはとてもご機嫌だ。それに心なしか、少し逞しくなった様にも見える。 「大好きな司に、毎日一杯遊んで貰っているからね」 「先生に?」 「うん」 「みやびさん達を放っておいて、先生はそんなことをなさっていたのですか?」 「……ダンテの半分でも、構ってあげれば良いんだけどね」  はあ、と殿子は溜息を吐く。  ダンテのご機嫌ぶりと反比例し、みやび達の機嫌は大幅下落中、連日最安値更新中だ。  みやびなど、何故かここ最近午後はお腹をクーク−鳴らしながら突っ伏している。  が、今回ばかりは司も強硬だった。  授業中は一切の私的な質問を許さないし、授業終了10分前には小テストを渡して逃げてしまう。  ……教師としてそれはどうだろう、とも思うが。 「本当、強情なんだから」 「でも、殿ちゃんは止めないのですよね?」 「私は司の味方だからね」  妹は兄を庇うもの、と殿子は胸を張って答えた。 「まあ」  そんな殿子を見て、梓乃はくすくすと笑う。  始めは殿子の変貌振りに慌てた梓乃ではあるが、殿子が「司と私は兄妹」といった以上、それを尊重するするのが親友というものだろうと考え、彼女はそれを受け入れた。  そして現在、自分も司を受け入れようと努力している。  ……たとえ司が“殿子の兄”としておよそ相応しく無い人物であろうが、自分にとっては最も苦手なタイプの人間だろうが、である。 「お〜い」 「あ、司」  そんな二人の傍に、司が駆け寄ってきた。  今日も無事、追っ手を撒いて来たらしい。 「待たせたな、殿子」 「ううん。 ……でも司、平気なの? 授業終わってからまだ数分だよ?」  如何考えても授業終了前に抜け出したとしか思えない神速ぶりに、殿子が心配そうに尋ねる。 「大丈夫だ。テストという名目もあるし、こんなことをするのは放課後前だけだからな」  ……ちなみにHRがある時は、アンケートを行うのだ。  そんな社会人としては駄目駄目な答えに、殿子は苦笑するしかなかった。 「司、社会人失格だよ」 「何、大事の前の小事だ」  司は社会人である前に漢だった。 「ところで司? 今日から梓乃も一緒で良い?」 「……そりゃあ別に構わないが、大丈夫か?」  司は殿子の背中でふるふると震える梓乃を見て、心配そうに尋ねる。 「だ、だいじょうぶ……です……」  だ、大丈夫、怖くない。  殿ちゃんの“お兄さま”なら、私のお兄さま……  梓乃は必死に自分に言い聞かせつつ、やっとの思いで答えた。  それは、今までの彼女から考えれば、信じ難い程の成長振りだった。(八乙女のじーさんが狂喜したのも無理は無い) 「大丈夫、噛み付かないから」 「そうだぞ、僕は相沢パパとは違うから、噛み付かない」 「……相沢のお父さん、噛むの?」 「ああ、男限定でな。まあ僕は未遂だったが、暁さんは噛まれたらしい」  が、暁は腕を噛まれただけだったが、司の場合、相沢パパは迷わず喉笛を狙ってきた。殺る気満々だった。  幸い、相沢ママと美綺のダブル攻撃の御蔭で事無きを得たが、もう絶対相沢邸には近づかない、と司は固く心に決めている。  ……まあそれ以上に怖かったのは、相沢ママの「先生、ウチの娘泣かしたら沈んでもらいますよ?」とのお言葉だったが。  (冗談めかして言ってはいたが、目が笑っていなかったのを司は見過ごさなかった!) 「で、今日はどんな特訓をするの?」 「地獄の千本ノックだ」 「せ、千本ノックですかっ!?」 「大丈夫だよ、梓乃。本当は100本位だろうから」  しかも、ボールを取るのはダンテだったりする。 「……え、でもそれって千本ノックじゃ……」 「八乙女、こういうのは雰囲気が大事なんだぞ?」 「そうだよ、梓乃。大事なのは、『特訓した様な気分になる』ってことなんだから」 「そ、そういうものなのですか???」  それって何か違うんじゃ……  梓乃の頭に、?マークが次々と現れる。  正直、この二人の会話について行けなかった。 「……殿子、言う様になったじゃあないか」 「意地悪な兄に、さんざん振り回されたからね」 (ああ、私の殿ちゃんが……どんどん先生に染まっていく……)  なんだかどんどん変な方向に変わっていく殿子を見て、梓乃は内心で滝のような涙を流した。  ……自分もその“変な方向”とやらに染まりつつあるという事実に、幸いにも彼女は未だ気付いていなかった。 ――――夕方、談話室。 「「「「…………」」」」  みやび、栖香、美綺、奏の四人は、談話室で黙りこくって座っている。  皆、如何にも機嫌が悪そうであり、その空気の御蔭で他にいるのは通販さん位のものだ。 「先生、何処で何してるんだろうね……」  ポツリ、と美綺が呟いた。 「まったく、あいつには教師としての自覚が無さ過ぎる!」 「……私、もしかして飽きられて捨てられたのでしょうか?」  些か疲れ気味の美綺に豪くお怒りのみやび……と、皆それぞれ何らかの精神的ダメージを受けていたが、中でも栖香のダメージ――その落ち込みよう――は相当なものだった。  ……そんな彼女を、奏が必死で慰めている。 「えっと! そ、そんなこと無いと思うよ! うん、絶対絶対……」 「でも、最近お食事も御一緒させて貰えませんし、話しかけても碌に返事をして下さいません…… お部屋にも入れて下さいません……」 「先生にも、きっときっと何か考えがあるんだよ!」 「それに最近、先生は鷹月さんや八乙女さんと御一緒しているようなのです」 「へっ? それ本当か!?」 「はい。遠目からではありますが、間違いありませんでした」 「う〜ん。黙ってたけど、実は最近そういう目撃証言が多いんだよねえ」 「何いっ!? 何故それを先に言わない!!」 「いやあ〜、だって確証がとれてないし……」  嘘である。妹の不安を煽るだけなので、黙っていただけだ。 「くっそ〜、殿子め〜っ! とっ捕まえて司の居場所を吐かせてやるっ!!」 「り、理事長、穏便に穏便に……」 「呼んだ?」 「と、殿子!?」  突然現れた殿子(と梓乃)に、みやびが目を丸くする。  皆、突然の渦中の人物の出現にどうして良いのかわからず、一瞬静まり返ってしまう。 「私に、何か用?」  が、その殿子の言葉が引き金となり、各々思いのたけをぶちまけた。 「つ、司さんを返して下さい!」「ウチの司を返せっ!」「私からもお願いします、お願いします、先生を返してあげて下さい!」 「?」 「あ〜、ええ〜と…… センセは何時も放課後何処に行っているか、知ってるかにゃあ〜?」  三人の、まるで愛人に詰め寄る本妻とその友人の様な台詞に、流石の美綺もバツが悪そうだ。 「知ってる」 「どこ!?」 「でも、言えない。口止めされてる」 「そ、そんなあ……」 「大丈夫、司も目的を達したら直ぐに帰ってくる。だから、それまでの辛抱」 「目的?」 「司は、『野生を取り戻す』と言っていた」 「……野生?」 「うん、確か……」  何だっけ? 鰐、熊、獅子……確か猛獣だった様な気がするけど。 「狼、だったかな?」  男が野生に帰る、と言えば狼しかないだろう。うん、そうに違いない。(悪い兄のせいで、殿子の知識は少し偏っていた) 「え?」  「それ、違うんじゃないかな?」と梓乃は思ったが、彼女にそんな突っ込みが出来るはずも無い。ただ沈黙を守るのみだ。 「「「「狼!?」」」」 「“野生”に“狼”って、もしかして……あの幻の予告が真実に!?」 「そんな……まさか……」 「いやあ! 暁先生助けて〜〜っ!!」  分校組の面々は大騒ぎだ。  が、本校系のみやび達は蚊帳の外である。  意味不明に盛り上がる分校系の三人を、みやび達は不思議そうに見る。 「……予告編って何だ?」  説明しよう!  予告編とは、体験版で語られた「遙かに仰ぎ、麗しの〜悪夢の絶望の陵辱の学淫」編のことである。  鬼畜教師滝沢司による学院総ハーレム化がその内容であるのだが、当然PULL TOPの作風に合う筈も無く、あえなく没となった幻の作品だ。  ……まあ、始めから嘘だった、という説もあるが、そんな細かいことは気にしないで欲しい。 「そんな破廉恥なことを許すかーーっ!!」 「う〜ん、流石に学院総ハーレムはねえ…… 女の子としてはやっぱり……  あたしとすみすみの姉妹丼エンドで、手を打ってくれないかにゃあ〜」 「姉様! 何を言ってるんですか!?」 「そうだよ〜 みさきち、それ良くない良くないよ〜」 「いいじゃん、姉妹で仲良く平等にセンセを分かち合えば」 「よくありません! それでは先生と結婚できないじゃあないですか!! この国では、重婚は犯罪なのですよ!?」 「そういう問題なのっ!?」  奏は、ずれまくった栖香の反応に唖然としながらも、「やっぱり二人は姉妹だよ、姉妹だよ」と思わず納得してしまう。 「あ〜そりゃ拙いわ…… あたし一人娘だから婿養子になって貰わないと……」 「私だってそうです! 先生には私と一緒に桜屋敷を継いで貰わないと!」 「正臣くんは、正臣くんは?」 「正臣は桜屋敷の重要性をちっとも理解していません。そんな子に桜屋敷は任せられません」  彼は「売っちゃえば?」とついうっかり口を滑らせ、栖香の逆鱗に触れたのだ。 「こらあっ! あたしを忘れるな!!」 「う〜ん、じゃあ交代で結婚する?」 「……誰が最初に結婚するのですか?」 「…………」 「…………」  二人の間に目に見えない火花が散った。  ぶっちゃけ、結婚したらこっちのもの、二人とも離婚する気などさらさらない。  つまり、もしここで譲ったら、永遠に愛人の身で甘んじなければならないのだ。  ……嗚呼、姉妹骨肉の争いである。 「むっき――っ! あたしを無視するなあ――――っ!!」 「ふう……」  これでは司が「野生を取り返して、はっきり物を言える様になりたい」と考えるのも無理は無い。  司の苦労を、殿子はちょっぴり理解出来た様な気がした。 ――――翌日の教員室。 「おい、司よ。お前最近、理事長達を放置プレイ中だそうじゃないか」 「……暁さん、誤解を招く様な発言は止めてください」 「いやだがな、近頃理事長のご機嫌は非常に悪い。実際、ピリピリしていてとてもじゃないが近寄れない、と苦情が山の様に届いている」 「……何故、それを僕に?」 「それをお前に伝えろ、と言われてるんだよ。  司、何とかして理事長の機嫌を直せ。ついでに相沢と仁礼のもな」 「……具体的にはどうすれば?」 「何、黙って三人のサンドバックになればそれで良い」 「鬼ですか、あんたは!」 「それが嫌なら、それぞれの耳元に優しく愛の言葉を囁いてやるって手もあるぞ?  ……まあ、こっちは下手したら刺されかねないから、お勧めは出来ないがな」 「お断りします」 「……どうしても駄目か?」 「はい」 「じゃあ、しょうがないよなあ」  暁は軽く肩をすくめると、司を簀巻きにし始める。 「暁さん、何を!?」 「お〜い上原、もう出てきて良いぞ」  その言葉を合図に、隣の机の下から奏が這い出してきた。  そして暁に対し、何度もお辞儀をする。 「暁先生、本当に本当にありがとうございました」 「上原!?」 「すまんなあ、司。俺も自分が可愛いんだ。上原にも泣きつかれたしなあ」 「裏切ったな! 僕の気持ちを裏切ったな! あの女と同じに、裏切ったんだ!」 「……よくわからんが、取りあえず『同じネタを二度使うな』と言っておくよ」 「くっ!」  途端に無抵抗になり、大人しく簀巻きにされる司。  ……それほど、暁の言葉は大ダメージだったのだ。  簀巻きになった司の前に、奏が仁王立ちになる。  どうやら司に対し、言いたいことがある様だった。 「そんなことより先生! わたし、とってもとっても大変だったんですよ!!」 「へ?」 「日々機嫌が悪くなる一方のみさきちと栖香さんの二人に囲まれて、わたし、お昼もろくに喉を通りませんでした!」  そう。  時に、借りだされて司を追いかけさせられたり、  時に、二人の無言のオーラに当てられたり、  時に、美綺から愚痴られたり、  時に、栖香に泣き付かれたり、  止めは、みやびも加わったトリプルオーラすら喰らって……  とってもとっても大変だったのだ。 「それは気の毒だとは思うが……」 「他人事みたいに言わないで下さい! あの二人をああしたのは先生ですよ!?」 「いやだからな、男しての尊厳を……」 「男なら、責任とれぇぇぇっっ!!」 「……はい」  こうして司は奏の罠に嵌り、簀巻きにされて連行されていった。  そして30分後、司は囲まれていた。 ……や、なんか皆メッチャ怖いです。 「さて、何か言い残すことはあるか?」 「お前等、何をそんなに怒っているんだ?」  多少怒ってはいるだろうとは思っていたが、想像以上の機嫌の悪さだ。 「センセ、往生際が悪いよ? ネタは上がってるんだから、いい加減白状しなよ」 「白状?」 「そうです。私というものがありながら、学院総ハーレムなど目論むなんて不潔過ぎます!」 「はい〜〜!?」  ハーレムって何ですかっ!? 「待て、ご、誤解だ! お前等絶対何か勘違いしているぞ!?」 「男はね〜、こういう時は皆そう言うんだよ〜」 「ちょっ、待……うぎゃあ――――っ!!!!」  …………  …………  ………… 「お前っ、そんな下らんことで! 御蔭であたしは、ここ数日お昼抜きだったんぞ――!!」  ぽかっ!  何がタイガー司だ、とみやびに殴られる。  ……あれから一時間後、全てを白状させられた司は、誤解こそ解けたものの、皆から呆れられた目で見られていた。 「……先生は一体何を考えていらっしゃるのですか?」 「またその場の思い付きだけで行動するんだから……」 「先生は元からワイルドじゃない、ワイルドじゃないよ」 「ううっ、だって『何時も理事長に奢って貰ってる』って、ヒモとか飼い犬扱いされたから……」  皆の冷たいお言葉に、司は涙ながらに訴える。  と、その言葉を聞いた途端、急にみやびはご機嫌になった。 「あははは。なあんだ、そんなことを気にしてたのか〜」  そして、何気に爆弾発言をぶちかます。 「お前はもうあたしに飼い馴らされたんだから、大人しく飼われろ。  なーに、安心しろ。ちゃんと一生面倒見てやるから」 「先生……」 「センセ……」 「先生はやっぱりヒモだよ、ヒモだよ……」 「ああっ! 何故か更に立場が悪化っ!?」 「リーダ、あたしの部屋に犬小屋造って」 「かしこまりました、お嬢様」 「お願いリーダさん、そこでつっこんで!?」 「ま、待って下さい! 確かに司さんは犬かもしれません!  けど言わば半野良、まだ飼い犬じゃあありません! だから私も所有権を主張します!」 「あ、じゃあアタシも」 「私は別にいらないいらないです」 「……仁礼、相沢」  つーか、もー犬決定ですか。  ああ、おれの残りの人生は鎖に繋がれて終わるのか…… 「司、大丈夫!?」  そんな中、殿子が駆け込んできた。  司が簀巻きで運ばれていったと知り、慌ててやって来たのだろう。幾分息切れ気味だ。 「おお、我が麗しの妹よ! へるぷみー!」 「……司、調子良すぎ」  いつもはもっとぞんざいに呼ぶ癖に、と殿子は苦笑いしつつロープに手をかける。  それを見たみやびが慌てて止めた。 「駄目だぞ! 殿子には所有権を主張する権利は無いからな!」 「……何のこと?」 「えっと、えっとですね……」  どこから話したら良いものやら、と奏が説明する。  …………  …………  ………… 「……それ、違うと思う」  奏の説明を黙って聞いていた殿子が口を開いた。 「飼い馴らされたのは、司じゃない。みやび」 「なっ、なんであたしが!?」 「……だってみやび、司がいないからお昼を『お預け』してたのでしょう?」 「はっ!?」  司が来ると信じ、馬鹿みたいに何日もお昼を抜いていた過去が、みやびの脳裏を過ぎった。 「ち、違う! 違うんだ! ただ、もしかしたら最近司が来ないから、今日こそは来るかと……って!? ええい、あたしは何を!?」 「理事長、それ自爆、自爆」  状況が自分に不利になりつつあることに気付き、みやびは慌ててリーダに縋った。 「リーダ、あたしは司になんか飼い馴らされていないよね、ねっ!」 「……もちろんでございます。お嬢様」 「今の間は何っ!? ねえリーダ、ちゃんとあたしを見て答えてよ!!」  微妙に目を逸らすリーダに、みやびは半泣きで詰め寄る。  が、リーダの態度が何よりも答えを雄弁に物語っていた。 「嘘だと言ってよリーダーーーーッッ!!」  みやびの悲痛な、あまりに悲痛な叫びが、分校内に木霊した。  ……それから暫くの間、野生を取り戻す、と称してみやびが凶暴化したのはまた別の話である。