帝國召喚 『帝國陸軍の大陸展開状況』 1、ロッシエル戦役直前(本編開始前)  ロッシエル戦役直前――昭和18年中頃――の帝國は、既に大内海の沿岸全域を支配していた。  この広大な大陸地域の防衛、治安維持に当たっていたのが帝國陸軍である。  当時、帝國は10個しかない完全編制師団のうち4個を割いて、大陸勢力圏の防衛に当たっていた。  この4個師団が大陸警備の主力となっているのであるが、実はこれ等師団は人員という観点から見れば、大陸に派遣されている陸軍人員の四分の一にも満たなかった。  大陸の帝國勢力圏は、帝國本国から見て西のガルム大陸東岸、東のロディニア大陸西岸に集中している。  このため帝國陸軍はこの二大陸をそれぞれ南北に分割し、東ガルム方面軍、南ガルム方面軍、西ロディニア方面軍、南ロディニア方面軍を創設、これに各地に展開している陸軍部隊を管理させることとした。 (ただし最重要地域であるバレンバンの派遣軍や遠隔地のホラズム派遣軍は上記4個方面軍から独立した存在である)  4個の方面軍の内容は、以下の通り。  方面軍司令部(方面軍司令官 陸軍大将)    直轄部隊      兵站司令部、憲兵司令部、碇泊場監部等の専門司令部機構とその隷下部隊。      各種機関、各種独立戦闘部隊等    野戦軍(野戦軍司令官 陸軍中将)     歩兵師団1個を基幹とする機動打撃部隊。     他に、戦車連隊、野戦重砲兵連隊、工兵連隊、機関砲大隊、速射砲大隊等を保有。     有事には、本国からの増援師団を指揮下に組み込む。    航空軍(航空軍司令官 陸軍中将)     飛行団、独立飛行戦隊/中隊、航空地区隊等、方面軍内の全航空及び航空関連戦力を保有。     作戦機は約350機、うち第一線機は200〜250機、第二線機は100〜150機程度。(*1)    軍管区(軍管区司令官 陸軍中将)     軍管区は管区内の治安維持を担当する組織であり、方面軍内に複数存在する。     軍管区は軍管区司令部とその直轄部隊、及び師管区(1個)よりなる。     軍管区は主に管区内の邦國を監理し、管区内の直轄領の監理は隷下の師管区に委ねている。     師管区(司令官は陸軍中将)は、軍管区内の直轄領を一括して監理する組織であり、軍管区隷下に1個存在する。     師管区は師管区司令部とその直轄部隊、及び複数の地区よりなる。     地区(司令官は陸軍大佐〜少将)は、地区司令部とその直轄部隊、及び複数の警備隊(*2)よりなる。 *1  作戦機とは戦闘機、襲撃機、爆撃機、偵察機、輸送機のこと。その他練習機等(約1200機)は含まない。  ロッシエル戦役直前の帝國陸軍作戦機数は約2500機。  内、第一線機は半分の約1500機であり、残り半分は二線級以下の旧式機である。  帝國陸軍は、各方面軍に200〜250機、バレンバンに約250機、ホラズムに約10機の第一線の作戦機を派遣している。  また、昭北島で待機中のロッシエル派遣軍にも約90機の第一線機が配備されている。  つまり帝國陸軍は、第一線の作戦機の大半を大陸に派遣していることになる。  (各方面軍に関しては、この他にも第二線級の機体を計500機派遣している)  このため本国の守り、本国(神州大陸を含む)の作戦機約750機のうち、第一線機は約250機に過ぎなかった。 *2 警備隊  鉱山等の資源採掘地区、主要な町や港を守備する拠点警備部隊。  甲、乙、丙の三種類の部隊編制となっている。  警備隊(甲)は、歩兵中隊×1〜4、機関銃/砲中隊、通信小隊、隊本部よりなる大隊級の部隊。指揮官は少佐〜中佐  警備隊(乙)は、歩兵小隊×1〜4、機関銃/砲小隊、通信班、隊本部よりなる中隊級の部隊。指揮官は大尉〜少佐  警備隊(丙)は、小銃分隊×3〜5、擲弾筒分隊、機関銃分隊、通信分隊、隊本部よりなる小隊級の部隊。指揮官は少尉〜中尉  機関銃/砲中隊(小隊)は機関銃、機関砲、迫撃砲、歩兵砲、速射砲、野山砲等を保有する部隊であり、警備地域の対空対地防御戦闘に従事する。  機関銃/砲中隊(小隊)は固定運用を基本とした部隊であり、保有火器数に対する人員の割合が少ない。また各中隊(小隊)の定員・装備は、各警備隊毎に異なる。 2、レムリア侵攻後(本編第5章〜)  昭和18年末、方面軍の同格組織としてレムリア派遣軍(北東ガルム方面軍の前身)が加わった。  つまり、新たに1個方面軍分――実際はそれ以上――の人員と装備が必要となったのだ。  各方面軍の人員は8万以上、これに帝國人だけでも10万近い数の陸軍軍属が加わる。 (一見大軍に見えるが、担当地域の広大さを考えればその配備は極めて薄い。故に帝國軍の防衛戦略の基本は機動打撃である)  帝國陸軍100万の内、およそ三分の一以上が大陸に常駐している計算だ。  他に臨時派遣の部隊等を考えれば、全人員の四割程度は常時大陸に展開していることになる。  更に、レムリア派遣軍の編成が一段落する予定の昭和19年春には、それこそ全人員の半数以上が大陸に『常駐』することになる。  これは余り好ましい現象ではない。  今以上に交代が難しくなり、派遣任務が一層長期化するからだ。  如何に我慢強い帝國兵とはいえ、レムリアの様な大文明圏ならばまだしも、何も無い辺境地域に何年もいるのは御免こうむるだろう。  帝國も娯楽関係の提供には相当力を入れてはいたが、そういった施設はどうしても直轄領でも一部地域、正確には主要都市や港湾に集中してしまう。  多くの人員が展開している地方にまでは、なかなか手が回らないのだ。第一、時間も金も資材も労力も無い。  彼等への慰問をどうするか?  頭の痛い問題である。帝國陸軍は、決して将兵の娯楽を軽視する軍では無いのだ。  将兵の我慢にも限度がある。  現在はまだ『祖国の危機』ということで不満もそれ程深刻ではないが、それもここ一〜二年が限界であろう。  ……とはいえ、出来ないものは仕方が無い。  未だ根本的な解決策は見出せず、暗中模索の時代だったのである。 <補足>帝國陸軍下士官兵の古参化  外伝4『辺境警備隊隊長よもやま物語』の第1話に以下の様な台詞がある。  「せめて、数ヶ月に一人でも人の出入りがあれば、大分違うのだけどな」  この言葉が正しいとすれば、兵すら交代が無いということだ。  何故? 除隊は? 新兵は?  実は現在の陸軍の徴兵状況は、『とても100万規模の軍を維持出来ない程少数』なのだ。  これには以下のような事情がある。 @船舶不足  いちいち交代の兵を乗せて往復する程の船舶が無いということ。  それ位なら行きは資材、帰りは資源を搭載させたいということだ。  必然的に必要とされる新兵の数は少なくなる。 A練度の問題  新兵と古兵を一対一で交代させるのは勿体無さ過ぎる。  只でさえ人員が減っている帝國陸軍は、兵に熟練を要求しているのだ。  所謂、兵士のプロフェッショナル化だ。 ……まあ兵にとってはいい迷惑だが。  このため中隊によっては、『兵全員が上等兵』なんてところすら見られる。