帝國召喚 『帝國陸軍概論』 1、ロッシェル戦役直前(本編開始時)  転移直後、帝國陸軍は約230万人に上る大兵力を保有していた。  これは戦略単位だけでも51個師団58個独立混成旅団という膨大なもので、この他にも旅団以下の独立部隊や航空部隊を多数保有していた。  が、転移後の極度の労働力不足と膨大な大陸資源地帯開発予算を捻出するため、帝國陸軍は予算と兵力の大幅な削減を迫られた。  具体的には、兵力は100万人にまで削減され、予算も半分以下に削減されたのだ。  こうした逆風の中、帝國陸軍は砲兵・高射・戦車・航空部隊等の『特科』は削減せず、歩兵戦力を大幅削減することで何とか戦力を維持しようと図る。  このため師団・独立混成旅団の半数が予備役に回り、現役に残った部隊の多くも平時編制に落とされた。  また、かつて中国大陸に置かれていた警備隊や国境守備隊も解隊され、大陸直轄領用の警備隊や独立歩兵大隊に改編された。  こうした戦略単位数の大幅減少を少しでも緩和するため、残った師団に対する戦力強化が実施された。これが昭和十七年型師団である。  昭和十七年型師団には甲乙の二タイプがある。  昭和十七年型師団(甲)    ・師団司令部(歩兵団司令部も含む)    ・歩兵連隊×3      連隊本部      歩兵大隊×3        大隊本部        歩兵中隊×4(中隊指揮班+3個歩兵小隊)        機関銃中隊(中隊指揮班+4個戦銃小隊――重機関銃8)        大隊砲中隊(中隊指揮班+速射砲小隊+歩兵砲小隊――速射砲2、歩兵砲2)      連隊砲中隊(中隊指揮班+3個戦砲小隊+弾薬小隊――山砲6)      速射砲中隊(中隊指揮班+3個速射砲小隊+弾薬小隊――速射砲6)      通信中隊    ・砲兵連隊      連隊本部      砲兵大隊×2        大隊本部        観測班        砲兵中隊×3(中隊指揮班+観測班+2個戦砲小隊+弾薬小隊――野砲/山砲4)        大隊段列      砲兵大隊(大隊本部+観測班+3個砲兵中隊+大隊段列――10p榴弾砲/10p山砲12)      連隊段列    ・捜索連隊    ・工兵連隊    ・輜重兵連隊    ・師団機関砲隊(隊本部+3個機関砲中隊+段列――20ミリ機関砲12)    ・師団速射砲隊(隊本部+3個速射砲中隊+段列――37ミリ/47ミリ速射砲12)    ・師団通信隊    ・師団兵器勤務隊    ・師団衛生隊    ・師団第一野戦病院    ・師団第四野戦病院    ・師団病馬廠    ・他  従来の甲師団からの変更点は――  @歩兵大隊に速射砲小隊を配備し、従来の歩兵砲小隊と合わせて大隊砲中隊を新設。  A歩兵連隊の連隊砲中隊と速射砲中隊の戦砲/速射砲小隊を1個(つまり2門)増加。  B師団機関砲隊、師団速射砲隊の新設。  ――で、火力が大幅に強化されている。  具体的に言えば、速射砲36門(*)、機関砲12門、山砲6門の増強だ。  (無論、この他にも様々な改良が加えられている。   ただ主眼が『火力増強』に置かれているだけの話だ)  尚、昭和十七年型師団(乙)は従来の甲師団と同一である。  この改編は現役師団が対象で、完全充足師団は昭和十七年型師団(甲)、平時編制師団は昭和十七年型師団(乙)に改編することとされていた。  ちなみに現役独立混成旅団、予備役師団/独立混成旅団に関しては従来通りで、何の手も加えられていない。  また同じ現役師団であっても完全充足師団が優先され、平時編制師団にまでは中々手が回らないのが正直な所であった。  これ程までに優先して予算と装備が回された完全充足師団であったが、絶対的な予算の不足から、ロッシェル戦役突入時ですら@ABについてはほぼ完了したがCについてはまだかなりの師団が未配備か独立中隊規模の配備に止まっていた。  ロッシェル戦役突入時の帝國陸軍の戦力は以下の通り。  総兵力 100万人  現役    26個師団28個独立混成旅団(うち完全充足は10個師団。他は充足率40〜50%の平時編制)  予備役   25個師団30個独立混成旅団(充足率5%以下、司令部と装備管理要員のみ)  配備状況は、完全充足師団4個が大陸に常駐――無論多数の部隊と共に――する以外は、全師団/独立混成旅団が本国に配備されていた。  (但しローテーションで、神州大陸に4〜5個師団が常時展開) *従来の歩兵連隊は速射砲を最大12門程度保有していたが、この場合は一般的だった4門(連隊直属の速射砲中隊のみ)で計算している。 2、レムリア王都制圧後(本編第5章〜)  レムリアを併合したことにより、帝國陸軍の守るべき地域は大きく増えた。兵站の伸びはそれ以上に大きい。  この兵力を捻出するため、帝國陸軍は遂に独立混成旅団を全廃することを決定した。  ……まあ現役独立混成旅団の優先度はかなり低いため、『平時編制で充足率40〜50%』という規定は机上での話に過ぎず、実際の充足率は20〜30%程度だったため、この決定は現状の追認と言えなくも無かったが。  また平時編制の現役師団の方も、ロッシェル戦役以来の北東ガルム戦線を維持するため人員抽出が頻繁に行われており、この時既に平均充足率は42%から25%にまで低下していた。  要するに、帝國陸軍の台所事情は火の車だったのだ。そういう意味でも、今回の戦力構成見直しは必然だった。  帝國陸軍の新たな戦力改編計画は以下の通り。  総兵力 100万人  現役    26個師団(うち完全充足は13個師団。他は充足率20〜30%の平時編制)  予備役   25個師団(充足率5%以下、司令部と装備管理要員のみ)  新編成が完了すれば、帝國陸軍の部隊配備状況は――  大陸の直轄領(資源地帯)に、完全充足師団4個(+1個連隊)。  北東ガルム大陸に、完全充足師団6個(−1個連隊)。    レムリアに5個    ロッシェルに1個(1個連隊欠)  帝國本国に、完全充足師団1個、平時編制師団10個、予備役師団25個。  神州大陸に、平時編制師団3個。  緊急展開軍に、完全充足師団2個(通常は本土及び神州大陸に駐屯)  ――となる。  当初は大陸の直轄領に5個、北東ガルム大陸に5個となっていたが、西レムリアの鉱山開発に乗り出すことになったため、急遽追加されている。  この配備で特に目を引くのが、緊急展開軍の新設だ。  この緊急展開軍の2個師団は純粋な『戦力の余裕』、いわば戦略予備兵力である。  小競り合い程度なら、十分過ぎる手持ち兵力――少なくとも参謀本部はそう判断している――だろう。  師団そのものも一層強化される。  独立混成旅団の廃止により浮いた装備を回し、師団火力を更に向上させようというのだ。  大幅な部隊削減により、従来(転移直後)からの計画――  @歩兵大隊に速射砲小隊を配備し、従来の歩兵砲小隊と合わせて大隊砲中隊を新設。  A歩兵連隊の連隊砲中隊と速射砲中隊の戦砲/速射砲小隊を1個(つまり2門)増加。  B師団機関砲隊、師団速射砲隊の新設。  ――の達成目処がついたことにより、更なる増強がされることとなった。これが昭和十九年型師団である。  昭和十九年型師団    ・師団司令部(歩兵団司令部も含む)    ・歩兵連隊×3      連隊本部      歩兵大隊×3        大隊本部        歩兵中隊×4(中隊指揮班+3個歩兵小隊+機関銃小隊――重機関銃2)        機関銃中隊(中隊指揮班+4個戦銃小隊――重機関銃8)        大隊砲中隊(中隊指揮班+速射砲小隊+歩兵砲小隊――速射砲2、歩兵砲2)      連隊砲中隊(中隊指揮班+3個戦砲小隊+弾薬小隊――山砲6)      速射砲中隊(中隊指揮班+3個速射砲小隊+弾薬小隊――速射砲6)      通信中隊    ・砲兵連隊      連隊本部      砲兵大隊×4        大隊本部        観測班        砲兵中隊×3(中隊指揮班+観測班+2個戦砲小隊+弾薬小隊――野砲/山砲/10p山砲/10p榴弾砲4)        大隊段列      連隊段列    ・捜索連隊    ・工兵連隊    ・輜重兵連隊    ・師団機関砲隊(隊本部+3個機関砲中隊+段列――20ミリ機関砲18)    ・師団速射砲隊(隊本部+3個速射砲中隊+段列――37ミリ/47ミリ速射砲12)    ・師団戦車隊(隊本部+中戦車中隊+軽戦車中隊+整備中隊+段列――八九式中戦車10、九五式軽戦車10)(*)    ・師団通信隊    ・師団兵器勤務隊    ・師団衛生隊    ・師団第一野戦病院    ・師団第四野戦病院    ・師団病馬廠    ・他  最終的には全師団が昭和十九年型師団に改編される予定である。  昭和十七年型師団(甲)と比較して、師団砲兵と師団機関砲隊が増強されているのに加え、師団戦車隊の新設すら行なわれている。  また歩兵中隊内に機関銃小隊が新設され、大隊の近接火力と対空防御火力が大幅に増強している。  このため師団の戦力こそ大幅に強化されたが、師団定員は22000名にまで膨れ上がり、三単位師団でありながら従来の四単位師団並の図体となってしまった。  この膨れ上がった兵站負担に対応するため、3個師団しかない機械化師団を解体、そのトラックを各師団の輜重に分散配備し、各輜重連隊のトラック増強を行う羽目になった。  またあらゆる意味で『重くなった』ために戦略機動性が著しく低下し、海外展開を宿命とする陸軍にとって見逃せない問題となっている。 (他にもポスト確保のため、各師団には新たに副師団長職が設けられ、1個師団に中将1に少将3――副師団長/参謀長/歩兵団長――という4人もの将軍が存在することになり、少将間の序列や指揮系統に問題が出る可能性がある等、ソフト面でも無視しえぬ問題が出てきている) *師団戦車隊に関しては未配備師団が多く、配備師団でも軽戦車中隊は配備されていない場合が多い。 <昭和十九年型師団の師団砲兵>  昭和十九年型師団は一タイプのみだが、砲兵連隊の装備により次の二つに分けることが出来る。  現役師団26個の師団砲兵は『九四式山砲24門+九一式榴弾砲24門』装備という山砲・榴弾砲の均等装備が標準だが、『九四式山砲36門+九九式山砲12門』装備の山岳機動型や、『九一式榴弾砲48門』装備の火力強化型も存在する。  予備役師団25個の師団砲兵は『三八式野砲48門』装備か『四一式山砲48門』装備、または『九五式野砲48門』装備である。  現役師団から野砲が追放されたのだ!  それも三八式だけならば兎も角、九〇式や九五式といった期待の新鋭火砲ですら、だ。  (九〇式野砲に至っては、全師団から完全に追放されている)  そして現役師団には、山砲と10p榴弾砲しか配備されていない。  予備役師団には野砲も装備されているが、その性格上『廃品利用』の側面が強い。  これは帝國陸軍の理想を追求した結果である。  現役師団における主力火砲は、九四式山砲と九一式榴弾砲である。  両砲は、現役師団における師団砲兵の40〜50%をそれぞれ占めている。  まず九一式榴弾砲だが、重量が1500kg程度と10p級榴弾砲としては破格に軽量な上、射程も10q以上という有力な火砲である。  加えて野砲に比べ大威力(弾量は野砲の約6.3kgに対し約15.8kg)。操作性及び命中精度も良好だ。  師団砲兵としてこれ以上の砲は、現在の帝國陸軍には存在しない。  故に帝國陸軍は、九一式榴弾砲を師団砲兵の主力とした。  独立砲兵からもかき集め、保有する九一式榴弾砲の殆ど全てを現役師団に配備したのだ。  次に九四式山砲だが、大陸における戦闘を考慮した場合、大概の地域において悪路での砲兵運用を迫られる。  である以上、機動性の高い山砲は重宝されることは間違いない。  だからこそ九四式山砲は現役師団の大半に装備されており、九一式榴弾砲の補完戦力としてきめ細かい火力支援を行うことが期待されている。  やはり九四式山砲についても、保有する殆ど全てが現役師団に配備されている。  尚九九式山砲については、師団砲兵の重戦力たる九一式榴弾砲の数が足りないため、数あわせとして配属されているに過ぎない。  (とはいえ、機動性の高い10p級火砲として重宝されてはいるが)  野砲に関して言えば、第一線戦力から完全に追放された感がある。  まあ九一式榴弾砲に比べて400〜500kg程軽いとはいえ、『山砲より低機動性の上、榴弾砲よりも低威力』という中途半端さが嫌われたのだろう。  このため予備役師団に配属され、旧式の四一式山砲と共に余生を過ごすこととなった。  とはいえ、三八式野砲と四一式山砲についてはかなりの余剰が出、大陸で固定砲として運用されたり予備役の独立砲兵大隊に配備されたりもしている。  九〇式野砲に関しては例外で、重過ぎる(九一式榴弾砲と殆ど変わらない)ために師団から追放されたものの、その高初速と14qという長射程は魅力であった。  故に、一部は砲戦車や自走砲に転用、他の大部分は機動化されて戦車連隊または独立機動砲兵連隊に配属、依然として第一線戦力として運用されている。 (九〇式野砲は帝國陸軍の軍砲兵主力として、数少ない重砲の補完戦力を務めている)