外伝「カナ姫様の細腕繁盛記」03おまけ  暫く彼は何か考えていたが、やがて諦めたように言った。 「……これだけでは、平民と同じ所に埋葬する事になりますよ?」 「ありがとう!」  カナはとびっきりの笑顔で言った。  ――やれやれ、こんなことは我々の仕事では無いのだが。  カナの喜ぶ様を見て、思わず苦笑する。  まさか自分が殺した相手を弔う羽目になるとは思わなかったが、まあいいだろう。たまにはこんな事も悪くない。  ……しかしこの姫様、しっかりしている様に見えるがこうして喜ぶ顔を見ると、やはり年相応である。  ――やはりまだ子供なのだな。  彼はカナを微笑ましそうに眺め続けた。  その笑顔は、普段の作り物の笑顔とは全く異なるものであった。 ――――スコットランド王国 「?」  どうも最近おかしい。  何故か皆から、微妙に避けられている様な気がする。  ……いや、『避けられている』というよりも、『話のネタ』にされているような?  だが心当たりは全く無い。一体如何したら良いものか? 「エドリックさん!」  悩む彼を呼ぶ者がいた。  振り向くと、見覚えのある同族の少女が立っている。 「おや? クレアちゃんではないですか?」  自分の同僚、というよりも同格の家の末姫様である。 「御久し振りです。レイ殿の御用ですか?」 「違いますよ? 今日は是非お聞きしたい事があって、御呼び止めしました」 「はあ、私に聞きたいことですか?」 「はい、ぜひとも!」  彼女の表情は真剣そのもの、何か余程の事であろう。こちらも真剣に答える必要がある。 「分かりました、私に答えられる事ならば」 「いえ! エドリックさんにしか答えられない事です!」  私にしか答えられない質問? 何だそれは? 「エドリックさん、シュヴェリンの王女様のどんな仕草に惚れましたか?」  …………  …………  …………  しばし沈黙が訪れる。  彼の脳がその質問の意味を理解するまで、数分を要した。 「はあ!?」  ようやく質問の意味を理解した彼は、驚愕した。  なんですか、それは!? 「あの、何処で聞いたのかは知りませんが…… 何かの間違いでは?」 「そんな事はありません! 町の皆もそう噂しています! シュヴェリンの王女様って、私より一つ上なだけなのでしょう?  そしてエドリックさんと高久様は同い年! これはもう、参考にするしかないじゃあないですか!」 「ちょっ、ちょっと待って下さい、ですからそれは皆の勘違……」  興奮しながらたずねるクレアを、必死に宥めようと試みる。 「分かってます、隠したいのでしょう? でも全然恥ずかしい事ではありません!  ……あ、私はもちろん応援しますよ? 愛に年や種族の差なんて関係ないですから!」  ダレカタスケテ……  思わず内心助けを求めてしまう。  このかつて無い危機を乗り越えるには、如何したら良い? 考えろ、エドリック! 「あ! そういえば品川大尉がレイ殿の別邸にいらっしゃているようですよ!」  品川大尉、申し訳ない。今度一杯奢りますから許して下さい。 「え、高久様が! ……お兄様ったら、私に隠してらしたのね!」  彼女はエドリックと別邸の方角を何度も見比べて、何やら葛藤をしている。 「う〜、後ろ髪を引かれる思いですがエドリックさん、この話はまたの機会にという事で御願いします」  ようやく追求を諦めたらしい。 「ええ、ですがその時には誤解は晴れていると思いますよ?」  助かった…… 「ではエドリックさん、さようなら」 「さようなら」  彼女が消え去るのを確認すると、どっと疲れが押し寄せてきた。  成る程、最近の妙な感じの理由はこれだったのですね。しかし、一体誰が…… 「!」  突然彼から瘴気が噴出す。  誰が? ……そんなの決まっているじゃあないですか!  私としたことが、つい動転してしまいましたよ。  あの場にいたのは『彼等』だけじゃあないですか。飼い犬に手を噛まれるとはこの事です! 「……彼等にはたっぷりと、『教育』しなければいけませんねえ」  先ずは帝國軍山砲兵の皆さんの苦労を『実体験』してもらいましょう。  そうですね……各自帝國軍軍装完全装備の上、山砲を分解運搬しつつ山岳機動訓練でもやってもらいましょうか?  そう考えると、にこやかに笑いながら部下達が日頃たむろしている酒場に足を向けた。  その笑顔は普段の作り物の笑顔とは全く異なり、怖くなるほどの笑顔だった。