帝國召喚 短編「帝國陸軍の新しき『軍馬』」 3騎のワイバーンが編隊を組んで急降下していく。 彼等はある高度にまで到達すると、一斉に腹に抱えた100キロ爆弾を投下した。 爆音。 一拍子おいて、あたりに爆音が響き渡る。 だが…… 「……また外れか」 見学していた軍人達から失望の声が漏れた。 投下された爆弾は、全て『目標』から大きく外れていたのだ。 「……酷いな」 「静止目標相手に命中率5%以下かよ。実戦なら1%切るんじゃないか?」 「爆弾の無駄だな。爆弾だって只じゃあない」 参謀達の批評を横目で見ながら、参謀総長は尋ねた。 「原因は?」 何故ここまで酷いのか? ということだ。 「高度計や照準装置すらない、全くの目視照準です。カンでやっておりますから」 責任者の『騎兵』連隊長が答えた。 「だが、ロッシェルの連中はもっと命中させていたぞ? それも『実戦で』だ」 「お言葉ですが閣下、彼等は選抜された適格者であり、その上幼い頃から竜に乗って訓練した熟練者です。あれは、文字通り人竜一体となっているからこその命中率です」 「……『それでもあの程度の命中率』とも言えるな。まあ半年程度の訓練では、どうにもならないのも無理からぬ訳だ」 連隊長の言葉に、溜息混じりに続ける。 「半年程度ではただ『乗れる』だけです、戦闘任務は無理でしょう」 「では、後どの位必要だ?」 「最低1年は」 「最短で後1年だと!?」 「それも『対地攻撃任務のみ』での話です。敵空中騎士団との戦闘は自殺行為でしょう」 それでは意味が無い! 前線に出せないじゃあないか。 参謀総長は、思わず頭を抱えた。 帝國陸軍は、転移後早い段階から飛竜(ワイバーン)に注目していた。その高い短距離離着陸性能を買ってのことだ。 そしてロッシェル戦役後、帝國陸軍は未だ戦車連隊に改編されていない騎兵連隊のうちの1個を実験部隊に指定。飛竜部隊の運用研究を本格的に開始した。 帝國陸軍が期待した任務は、以下の三点である。 @飛行場設営までの間の制空権確保。 A師団・旅団に密着した対地支援。 B軽輸送・偵察任務。 選択された飛竜はワイバーン・ロードではなく、『整備』が容易でコストも安いワイバーン。半年の訓練期間を経て、今回初めての公開演習だったのである。 「……ワイバーン・ロードなら状況は変わるか?」 参謀総長は、一縷の望みを賭けて尋ねた。 「速度が速くなるので、命中率は更に悪化します。勿論、訓練期間も倍どころの話ではないでしょうね。世話も魔道士の手を借りなければ不可能ですし、経費が雪だるま式に増えるのでは? ……そもそも我々に扱えるかどうかすら、疑問ですが」 「…………」 これで戦闘任務は不可能と分かった。ということは、軽輸送や偵察任務だけか。まあそれなら何とかこなせるだろうが…… 彼の頭の中では、既に『配備中止』の文字が浮かんでいた。 だが参謀総長の予想に反し、飛竜部隊は実戦配備されることとなった。 飛行場や燃料もいらず、何よりも『自分の手元』に置かれるであろう飛竜部隊を、師団長や旅団長達が熱望したのが理由だ。 飛竜部隊は軽輸送・偵察任務に限定されたため師団・旅団直属となり、師団(旅団)飛竜隊として各10騎程度が配備された。 彼等は師団の『何でも屋』として以後重宝され、特に負傷者輸送任務に威力を発揮をすることになる。 何処へでもやってきて、負傷者を即座に運び出す彼等は『神様、仏様、飛竜様』と前線の将兵から呼ばれ、親しまれた。 一向に先の見えない回転翼機(ヘリ)を尻目に、飛竜は確固たる地位を築いたのである。帝国陸軍から馬が完全に追放された後も、その地位に変化はなかった。 ようやく回転翼機が配備されてからも、初期は信頼性と性能で優越し、その後はその低コストから長い間運用され続ける。 飛竜が正式に除籍されたのは、驚くべきことに平成の御世(さすがに予備役任務だったが)になってからのことだ。 帝國陸軍最後の飛竜達は、除籍時に長い間の『一族の』帝國への貢献が認められて勲章を授けられ、さらに辺境の山岳地帯を下賜された。 彼等は『結界』を張ったその地に放たれ、余生を過ごすこととなったのだ。 現在でも、そこに行けば飛竜達が元気に飛んでいるのを見ることが出来るだろう。だが決して勝手に入ってはいけない。 そこは彼等の『國』、立派な帝國の邦なのだから。