帝國召喚 短編IF「もう一つの未来。数多の戦いと勝利の果てに……」 ――皇紀2700年 帝都、統合軍作戦本部。 「第一撃は、ニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコ。この三都市に、巡航誘導弾を叩き込む」 「ワシントンはどうしましょう?」 「放っておけ」 「弾頭は、本当に通常弾でよろしいのですか?」 「ああ、最初から全力を出すこともない。 ……すぐ勝負が着いたら、面白くも何ともないだろう?」 彼の軽口に、笑いが広がる。 そう、遂に帝國は『元の世界』への扉を開くことに成功したのである。 別に、里心がついたからではない。 『元の世界』で生を受けた者自体、最早数えるほどしか存在しないのだ。ましてや、『元の世界』を故郷などと考えている者など、皆無であろう。 表向きの理由は、『復讐』。 國民の大半はこれだけで納得した。 転移前の世界において、帝國が受けた数々の恥辱。 世界の覇者たる帝國。その國民にとって、それはとうてい耐えられるものではなかったのである。 納得どころか、多くの國民が積極的に賛同さえしていた。 (國民が、『戦争ぼけ』していることもあるだろう) ……だが、真の理由は別の所にある。 帝國は、『敵』を欲していたのだ。 連合王国との長きに渡る冷戦が、連合王国が帝國の前に跪ずくことにより、数年前ようやく終わりを告げた。 最早、世界中どころか、宙を見上げても帝國に敵はいない。 帝國は、真に『世界統一国家』となったのである。 転移後、百年近くに渡り戦い続けてきた帝國にも、ようやく平和が訪れようとしていたのだ。 ……だが、長き時を戦い続けてきた帝國は、戦い続けなければ生きていけない体質と化していた。 政治が、経済が、そして何より社会体制そのものが、戦争を必要としていたのだ。 これを転換するには、激しい痛み――それこそ、かつての明治維新にも匹敵する――を必要とするだろう。 そんな痛みを、転換出来る立場にある者達――彼等こそが痛みを受ける既得権益者達だ――が受け入れる筈もなかった。 結局、激しい痛みを恐れた帝國は、現状維持を選択する。 そのためには、敵――それも大きな敵――を必要としていた。 『あの世界において、帝國は全世界から挑戦を受け、心ならずも逃げ出した形となっている! 世界全土と120億の民を支配するこの帝國が、だ! このような不名誉を看過してよいのか! 否! 断じて否である! 帝國は、いかなる敵も恐れない!  魔族、古代竜族、天空族、地底族、月族…… 帝國はあらゆる敵と戦い、これを討ち破ってきた! 何としても再びあの世界に戻り、彼等の挑戦を受けなければならない! 曾祖父達の受けた屈辱を、我等が晴らすのだ! 彼等に、裁きの鉄槌を!!』 テレビジョンから流れる帝國宰相の演説をBGMに、彼等の会話は進んでいく。 「ああ、ちゃんと宣戦布告はしておけよ? 負けた理由にされては堪らんからな?」 平和への切符は破り捨てられ、『帝國の復讐』、『新たな敵との戦い』が、今まさに幕を上げようとしていた。